INTERVIEW2023.2.8

モチベーションを刺激する環境に、人は集まるー(株)ユーグリード・宇髙尊己氏ー

INTERVIEW2023.2.8

モチベーションを刺激する環境に、人は集まるー(株)ユーグリード・宇髙尊己氏ー

製紙会社の社長の長男として生まれた宇髙氏。様々なイノベーションを起こしていた父の姿を受け継ぎ、業界の未来を見据える中で出会ったユーグレナ(ミドリムシ)の可能性に着目。(株)ユーグリードを設立し、ユーグレナ精製物である先端素材のパラミロンナノファイバー(PNF)を、様々な領域に展開しようとしています。同社は20~70代までの幅広い世代がそれぞれの特性を活かし活躍するエイジフリーな職場、という特徴を持っています。ユニークな環境でオンリーワンの技術に取り組む宇髙氏と共に、四国ならではの「働く」価値について考えてみました。

継承している時代の先を読む展開


佐々木
宇髙社長のご経歴をお聞かせください。
宇髙
泉製紙の社長をやっていた父の長男として生まれたのが、1955年。関西の大学を卒業後、現在の日東電工に入社。営業職として電子材料や機能材料を取り扱っていました。そして6年間働いた後、30歳の手前で泉製紙に戻り、社業を継ぎました。


松本
四国中央市は「紙のまち」と呼ばれるほど製紙業の盛んな地域ですが、泉製紙は業界に先駆けて環境問題に取り組み、環境に配慮したリサイクル製品の開発に取り組むなど時代の先を読んだ活動をされていたそうですね。
宇髙
今でこそ、環境汚染問題は世界中で着目され様々な取組みがなされていますが、「紙のまち」として成長著しかった当時(先代の時代)は、製紙工場の排水で川が白濁していました。それを見た先代がいち早く排水処理プラントを立上げ、また環境負荷の少ない古紙再生技術の開発に着手しました。その後、環境汚染が問題視されるようになって大きな注目を集めるようになり、コストだけではなく環境負荷の少ない優しい商品として知られ、ヒットを生んだ背景があります。現在もその流れを受けた新たな取組みとして、三井不動産や三菱地所、森ビルといった全国大手の不動産ディベロッパーと提携し、東京都内の大規模ビルから出る紙ゴミを集積・調達し、泉製紙でトイレットペーパーにリサイクルして返すというシステムを運用しています。丸ビル、虎ノ門ヒルズ、東京ミッドタウン、新幹線などで使われているトイレットペーパーはそのような循環を経たものになります。昔から取り組んできたことが環境経営を重視する時代の潮流と繋がり、評価をされるようになってきました。
佐々木
環境汚染が問題視される前にそれを問題として取り組んできたことが後の事業発展につながったという事例ですね。他にも取り組んできたものはありますか?
宇髙
1988年、先代が同業5社と共同で立ち上げたスバル(株)という会社があります。この会社は、高齢者雇用の専用事業所です。まだ高齢者雇用という概念も希薄だった頃、定年後も働きたい高齢者の受け皿を作ろうと考えたわけです。
今では多くの会社で定年を65歳に引き上げ、再雇用制度を用意するところもあります。しかし1988年から高齢者雇用に取り組んだ会社は、珍しいのではないでしょうか。
私は、定年後も同じ職場で働くのは、必ずしも好ましくないと考えています。かつての先輩・上司が、立場・収入を低くして同じ職場で働くのですから、後を任される社員にはやりにくさがあるでしょう。何より本人のモチベーションはどうでしょうか。蓄積された経験やノウハウに見合った報酬が支払われないと、やる気を失うのは当然です。
であれば、むしろ働く場所を変えた方がいい。それまでの人間関係を気にすることもなく、高齢者ならではの特性を活かした新たな業務で、しかるべき報酬を得られる。その方が、本人の幸福度向上につながるのではないでしょうか。
松本
確かに、高齢者に新たなフィールドで活躍してもらう方が、本人の意欲は高まるでしょう。そういったことに30年以上前から取り組まれていたのですね。
宇髙
今でこそ、高齢者雇用は顕在的な課題となっておりますが、少し先を見据えた本質的な課題解決が弊社の事業発展を支えてきたと言っても過言ではありません。現在は、同様の視点からハイパーユーグレナ(登録商標)を活用したバイオ事業に取り組んでいます。特にハイパーユーグレナから生み出される先端素材・パラミロンナノファイバー(PNF)の多方面への展開が今後の成長の大きな柱になろうとしています。

想定を超えるスピードで壁を克服した、エイジフリーの研究員たち


松本
ハイパーユーグレナによるバイオ事業とは、どういったものでしょう。


宇髙
その事業の背景には製紙業界の市場縮小があります。これはリサイクルを活発化させても止められません。そのため新ビジネスの開拓意識は、どの製紙会社も持っています。
新ビジネスの第一候補となっているのが、木材の繊維質をナノ単位に砕き、機能性材料として活用するセルロースナノファイバー(CNF)です。CNFについては大手製紙会社を中心に、巨額の費用を投じた研究が今も続いています。しかし研究から20年近くが経つのに、いまだ社会実装の道筋すら描けない状況です。泉製紙も一時期、CNFを研究していましたが、投資額に到底見合わないと研究を断念しました。
それで、別の事業の可能性を探るうち、巡り合ったのがユーグレナ(ミドリムシ)です。ユーグレナを食品やサプリメント、燃料などに利用する会社は既に登場していました。他にも可能性はないかと各大学を回ってみると、ユーグレナにナノ繊維が多量に含まれると教わったのです。このナノファイバーを製紙業に活用すれば、業界の抱える脱炭素や環境負荷低減といった問題の大半を解決できる。そう考え、さらに調査を進めました。
松本
木材由来CNFはいまだに実用化の糸口すら見えませんが、ユーグレナ由来はどうだったのですか?
宇髙
品質はむしろ優れているくらいです。しかし最大の問題は、供給量です。製紙業界を想定した場合、使用量は数千トン、数万トンの単位になります。それほど多量のユーグレナを培養できるのか、というのが大きな壁でした。
そこで巡り合ったのが、宮崎大学の林教授です。林教授はユーグレナ研究のオーソリティで、30年以上をかけて高効率培養できる株の育種を実現しておられました。培養効率は、従来の10倍以上です。この速度なら、社会実装に足りる量を供給できると思いました。

林教授(左)と宇髙氏/社内の研究室にて


松本
それでユーグレナの事業がスタートしたのですね。
宇髙
株の目処が立ったとは言え、検証しなければならない多くの課題が残されています。この研究を進めるため、私は前述のスバルを活用しました。スバルにとっての新規事業になるため、そこで働く従業員のモチベーションアップに貢献します。行う業務は研究開発が主体なので、体力的な問題もありません。緻密さや着実な積み重ねという点では、高齢者の方が合っているほどです。
一番の研究課題は、培養タンクのスケールです。微生物培養は通常、10~20リットルというスケールで行います。しかしナノファイバーの実用化をにらんだ時、スケールはトンの単位になります。5トンタンクだと高さ2mにもなるため、タンクの上部と下部では水圧も随分違ってきます。微生物であるユーグレナを、タンクの中で均一に生育させなければなりません。これを上手にコントロールできるかどうかが最大の壁でした。
松本
それは大変な壁ですね。実現までの道のりはどうだったんですか?
宇髙
当初は5年はかかると見て、それに沿った事業計画・資金調達を行っていました。ところが研究員たちは、1年で壁を克服したのです。タンク撹拌時のプロペラの形状や速度など、細かな知見を積み重ねることで成果を出し、大量培養への道筋をつけてくれました。これは嬉しい誤算でしたね。
この成果をもって、事業部ごと独立して2021年に(株)ユーグリードを設立。代表取締役に就任し、引き続き事業推進にあたりました。現在は5トンタンク1基に、連続培養可能な高性能タンクも1基設置し、100トンにも対応できる体制を整えています。見据えるのは、年間1000トンのユーグレナ培養です。
ユーグレナ由来のナノファイバーを展開するにあたり、従来のCNFと区別するため、パラミロンナノファイバー(PNF)とネーミングしました。

モチベーションを刺激する環境があれば、年齢は関係ない


松本
PNFを始めとするユーグレナ精製物を、どのような方面で提供するのですか?
宇髙
強度は鉄の5倍以上で、重さは5分の1というCNFと同等の性能を持つPNFは、プラスチック代替素材として期待しています。現在、製造で多くのCO2を排出するプラスチックの一部でもPNFに置き換えできると、CO2量の削減効果が高くなるでしょう。機能性材料としても適用できますし、バイオ由来エネルギーとしての活用も考えられます。これも脱炭素につながるものです。さらに、ユーグレナの豊富な栄養素は、人やペットなどの健康を支えるサプリや化粧品としても使えます。手始めにわかりやすい事例としてペット用のおやつの販売もしています。
佐々木
高齢者雇用所であるスバルでスタートした新規事業が、想定を超える成果を挙げたのはすごいですね。


宇髙
モチベーションを刺激する環境があれば、年齢に関係なく人はがんばれるのだと思います。バイオ事業を始めてから仲間に加わった人の中には、配偶者も子どももいながらIターンで入社してくれた40代のプラント設計者や、博士号を持ち研究を突き詰めたいと加わってくれた大学で教鞭をとっていた70代の方もいます。そういった方々が礎となりました。
ユーグリードには20代~70代まで、幅広い世代の人が活躍しています。定年という線引きもしていません。いくつになっても、意欲と確かなノウハウがあれば、エイジフリーな環境の中で能力を発揮してもらおうと思います。
当然、報酬も「再雇用だから」という理由で低く抑える考えはありません。収益は、みんなに還元するのが当たり前です。
佐々木
20代~70代が席を並べ業務に従事する。まさにエイジフリーな職場ですね。
宇髙
もともと高齢者雇用所の勤務形態をベースにしていますから、10時に休憩、15時にはおやつの時間があるのです。若い社員と高齢者が一緒に、わいわい言いながら食事や休憩を取る光景は、ほほえましいですよ。若い人が積極的に年配者と関わって刺激を受けるシーンがあったり、年配者が自身の孫のようにかわいがっていたりする光景が当たり前になりました。そのような組織は他にはあまりないのではないでしょうか。それを象徴する話として、ユーグリードには、カーボンフリーやSDGs、ESGを重視する投資機関やCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)から出資の話が寄せられています。もちろん事業の可能性に魅力を感じてのことではありますが、エイジフリーという組織風土についても好意的に評価してくれることが多く、我々の強みになっています。

地方ならではの組織と事業で世界を変えることにチャレンジしたい


松本
紙のまちで製紙を生業とした企業の中から、従来と全く異なる分野の事業が始まり、社会を大きく変えるかもしれない。しかもその会社はエイジフリーで、様々な年齢の人が一緒になってそれぞれが活躍できる職場を創り出しているとなると、地域に与える影響は大きいでしょうね。
宇髙
ユーグリードはまだ10数名ですが、社員の出身は北海道から西日本まで、多岐にわたります。地方発のこの事業が今後、世界を変えていくことになるという将来をイメージして集まった仲間たちです。なぜこの事業をやるのかという動機も明確ですし、それを実現させるためのコア技術が確立されてきたということもあり、今後急速に組織と事業が拡大していくフェーズに来ています。
佐々木
私たちは、四国地域の発展に貢献できる存在でありたいと願い、事業を行っています。常に考えるのが、四国ならではの「働く」価値とは何か、ということです。この地ならではの事業や人がそこにいて、稼ぐということだけでは計れない「働く」価値が存在していることが重要なことではないかと考えています。ユーグリードという会社は、まさにそれを体現してくれているように感じました。
宇髙
我々のような会社が地域で立ち上がり一つの事例になると、働く場所として地方を見る目も変わってくるのではないかと思います。地方からでも世界を変えていくような事業を生み出せるし、エイジフリーという新たな発想で人材活用や組織体制を創り上げ、事業を発展させる、この考えを当たり前のものにしていきたいと思います。
佐々木
ユーグリード社の発展が四国の未来を照らす旗印になるような希望に満ちたお話でした。これからも御社の事業発展を全力で応援していきたいと思います。本日はありがとうございました。

宇髙 尊己

(株)ユーグリード 代表取締役

1955年生まれ。関西学院大学を卒業後、日東電工(株)に入社。電子材料・機能性材料の営業を担当する。6年働いた後、Uターンし、泉製紙に戻って社業を継ぐ(現:専務取締役)。その一方、自身が代表取締役を務める高齢者雇用のスバル(株)で、新規事業としてユーグレナの研究開発を開始。2021年10月に事業部を独立させる形で(株)ユーグリードを設立、代表取締役に就任。

PICK UP

INTERVIEW

個人の幸せを起点とした、サステナブルな社会の実現。ー(株)フィット・鈴江崇文氏ー

2023.08.30

INTERVIEW

四国には、世界に誇れる「豊かな風景」がある。ー穴吹エンタープライズ(株)・三村和馬氏ー

2023.07.12

INTERVIEW

地方発の“独創力”が、社会と世界を進化させるー四国化成ホールディングス(株)・渡邊氏ー

2023.06.28

GROUP DISCUSSION

地域になじむ建築は、地元に根ざすからこそ作れるー(株)菅組・菅徹夫氏、松繁宏樹氏ー

2023.05.10

INTERVIEW

地元で得た“信頼”という基盤は、揺るがないー(株)伊予銀行・稲田保実氏ー

2023.03.08

INTERVIEW

モチベーションを刺激する環境に、人は集まるー(株)ユーグリード・宇髙尊己氏ー

2023.02.08

INTERVIEW

イノベーションのシーズは、地方にこそあるーナノミストテクノロジーズ(株)・松浦氏ー

2023.01.18

INTERVIEW

ワークライフバランスと、世界での活躍は両立できるー(株)トップシステム・森達雄氏ー

2022.11.16