INTERVIEW2021.8.25

インバウンドから見える、四国の未来ー四国旅客鉄道(株)・四之宮和幸氏ー

INTERVIEW2021.8.25

インバウンドから見える、四国の未来ー四国旅客鉄道(株)・四之宮和幸氏ー

JR四国は2021年「長期経営ビジョン2030/Good Challenge」を策定。鉄道部門・非鉄部門ともに従来にない発想でチャレンジを続け、新たなサービスを創造し、地域活性化に寄与することを発表しました。四国全域を俯瞰できる数少ない企業の一つである同社で、経営陣の一員として活躍するのが四之宮氏です。氏は四国の可能性や、四国で働くことの意義について、どのように考えているのでしょうか。

インバウンド観光客が四国に求めるのは、日本の原風景。


佐々木
四之宮さんがJR四国を就職先に決めたのは、どのような理由だったのですか?
四之宮
私がJR四国に入ったのは1989年です。前年に本州と四国を結ぶ瀬戸大橋が全線開通していますので、まさにその直後ですね。日本はバブル景気全盛を迎えるところであり、当時の竹下総理が「ふるさと創生で地方自治体に1億円ずつ配る」といった政策を実行し、日本経済は良くなる、地方もどんどん発展するといった空気が充満していました。
当時、大学院2年だった私は、研究室の先生から「君は四国出身者なんだから、四国でがんばったらどうだ」とJR四国を薦められたんです。言われてみれば、鉄道は地域密着の事業だし、地域活性化を担う存在でもある。四国の発展に寄与できるなら、やりがいがありそうだと思い、入社しました。
入社当初は土木分野の仕事を任されました。橋ができたおかげもあってか、入社後の会社の業績は絶好調でしたね。しかしご承知の通り、バブルがはじけ、厳しい時代がやってきます。特に地方の経済は大変で、業績も見る間に悪くなっていきました。
佐々木
その頃はモチベーションの維持も難しくなかったですか?
四之宮
ところが、私はむしろピンチの時こそ「誰かがやらないと」と思う方でして。鉄道会社は、ちょっと調子が良くないからと言って、簡単にあきらめるわけにはいきませんよね。地域を支える公共交通なのだから。鉄道がなくなると、生活が成立しないエリアも出てきてしまう。じゃあ何とかしようという意欲がかきたてられました。
それに、鉄道会社はどの部門に行くにしろ、地域のお客様とつながっている実感があるんです。日々、お客様と接するので、お客様のためにがんばろうという気になりますよね。
また、JR四国にはグループ会社が20ほどあるので、いろんな仕事が経験できます。私も土木を出発点に、様々な部署を回りました。ホテルにも出向しましたが、働いている人はみんな「この仕事が好き」と言うんです。お客様に接して、喜んでもらえるのが嬉しいと。そういうやりがいに接することもできました。入社する時はみんな「四国の社会に寄与」なんて大きなことを言うけれど、原点は、日々お客様と接し、満足してもらうこと。そんな基本を学んだ気がします。
そうこうしているうちに、インバウンドという新たな波がやってきました。


佐々木
海外からの観光客が全国各地を訪れるようになりましたね。
四之宮
入社した頃は、四国に海外からお客様が来るなんて、考えもしなかった。日本人観光客にすら見過ごされがちなエリアでしたから。だからインバウンドについても、最初は懐疑的でした。ところがフタを開けてみると、多くの人がやってきてくれた。それに伴い、四国がどんどん元気になってきた。結果的に、JR四国も活気に満ちてきました。
しかも海外の人々が訪れたいのは、いわゆる観光地ではありません。日本人観光客は訪れない、原風景の日本とでも言うべき場所を好みます。
加地
日本らしい日本というか、海外の人が認識する日本らしさが四国に残っている、ということでしょうか?
四之宮
その通りです。海外の人たちは、そこにしかない生活のシーンを見たい、生活を営む人と話がしたいと考えているんです。
例えば、にし阿波地区の急傾斜地で営まれる循環型生活の地に行き、農機具で土を上げるような体験を喜ぶ。であるなら、瀬戸内の漁を体験したいという人もいるかもしれない。私たちが気づかないだけで、海外から訪れる人々の心を豊かにするような風景が、四国のあちこちに眠っているかもしれない。これはJR四国にとってはもちろん、地域活性化を見据えた上でも、大きなチャンスだと考えています。
コロナ禍が収束すれば、インバウンド需要は復活するでしょう。JR四国が公共交通を担う存在としてその安全性・信頼性を維持しなければならないのは言うまでもないことです。が、それだけでなく、国内外から何度でも訪れたい、あるいはここで暮らしたいと思ってくれる人を増やすためにも、私たちの果たすべき役割は大きいと思います。

四国を救う「3つの“I”」。


加地
香川県三豊市の父母ヶ浜も、今や「日本のウユニ塩湖」と称され、人気の地になりました。何百年も前から変わっていない風景だったのに。ああいった所が四国にはたくさんあるんでしょうね。広報の仕方であれほど変わるのだから、四国はかなり可能性を秘めていると言えそうです。
四之宮
私は「3つのIが四国を救う」とよく言っています。
1つめのIとは、言うまでもなくインバウンドのことです。
2つめのIは、ICTですね。ICTがなかった時代は、東京駅構内に四国のポスターを貼ってもらうだけでも大変でした。しかし、ICTがあれば、四国にいながら、全世界に発信できる。また、鉄道業務の効率化にもICTは重要となります。人口減が進む中で変わらぬ安全性・信頼性を担保するには、ICTをフル活用した省力化が不可欠ですから。情報発信ツールとして、公共交通ネットワークを守る基盤技術として、ICTは大事ですね。
そして3つめのIは「愛」。すなわち、四国で暮らす人々に「自分の住む地域はとても暮らしやすい」ということを、どんどんアピールしてもらう必要があるんじゃないか、と。地域愛ということですね。
以前、何かのメディアで見かけたのですが、転勤族に住みやすい町についてアンケートをとったところ、香川県高松市は結構上位に入っていました。他地域で暮らしたことのある人は、他と比較できるから、四国の良さに気づくのだろうと思います。こうしたことを、広く伝えていかないといけません。
佐々木
3つめは私も痛感します。地元の人が、四国に愛着を持っていないというか、気づいていないというか。いかに地域外に出さずに地元に根を張ってもらうか、という考えもあるのでしょうが、外に出た方が戻ってきた時に「他と比べると四国ってやっぱりいいな」と感じてもらう、そういう魅力をどこに作るかが、非常に重要ではないかと思います。


四之宮
インバウンド需要が活況になると、次はリバウンドが起こります。すなわち、海外のお客様がたくさんやってくるようになったことで、国内のお客様が「四国って実はいいんじゃないか」と気づき始める。そして、改めて来てくれるようになる動きです。
そうやって交流人口が拡大すれば、「四国に戻りたい」、あるいは、新たに「四国で暮らしたい」と考える人を増やすこともできるかもしれない。交流人口と定住人口が増えれば、地域は当然活性化するし、当社の業績にも跳ね返ってきます。そういう意味でも、JR四国は、地域の課題に積極的に関わっていかないといけないと思いますね。4県全域を事業基盤とする私たちは、オール四国の視野が持てる数少ない企業の一つなのですから。
「四国の魅力づくり」という観点で言うと、コンパクトプラスネットワークの形成も大事かな、と考えています。4県の県庁所在地を中心に、コンパクトな中核都市が連なるネットワークです。
加地
一つだけ大きな都市があっても、周辺エリアの人口を単に吸収するのでは意味がない。そうではなくて、魅力あるコンパクトな都市を連携させる、ということですね。
四之宮
ある程度の規模の都市が近いエリアに複数存在すると、人口をダムのように貯留できるようになります。九州の博多や北海道の札幌がまさに人口ダムで、圏域内の人がいきなり外に出るのを防いだり、逆に域外に出た人が戻る場合のとどまる場所として機能しています。このような人口ダムが四国4県にもできれば、四国外に出た人が、「やはり四国がいいな」と戻ってくることを考えた場合の、定住先となるかもしれません。
こういったまちづくりにおいても、ハード・ソフトの両面でJR四国にできることがあるのではないかと思います。

課題先進地域だからこそ、チャレンジできる。


佐々木
四国ならではの働く価値について、四之宮さんはどのようにお考えですか?
四之宮
四国は、他地域より人口減が進む「課題先進地域」であることに間違いありません。しかし、インバウンド需要や、それに伴うリバウンドなどの好材料もある。既成概念にとらわれない、新たなチャレンジによって四国の魅力を再発見し広く発信すれば、地域は活性化します。そのチャレンジは、四国だからこそできることも多いと見ています。
例えばMaaS(Mobility as a Service=鉄道、バスを始めタクシー・レンタカー・シェアサイクルといったあらゆる公共交通をICTによって結び、人々が効率よく使えるようにするシステム)などは、四国で実現しやすいのではないでしょうか。
佐々木
JR四国としてMaaSを未来にどう当てはめていこうと考えているのですか?
四之宮
MaaSを考える場合、最初に軸となるのは鉄道とバスの連携です。鉄道とバスの乗換えをITで検索できるようにするのも大事ですが、そもそも電車からバスに乗り換えるまで1時間も待たなければいけない…というようでは、サービスになりません。
そこでJR四国では最近、パターンダイヤを導入し、何時に駅に電車が着くかをパターン化させています。こうすると、バス会社も時間が組みやすくなり、それほど待たなくてもバスに乗り継げる時間が組めるようになります。
鉄道と他の交通機関が激しく競合するエリアでは、こうした連携は取りづらい面もあります。ところが四国内は、公共交通の競合がそれほど激しくなく、JRと他の鉄道、バスはそれぞれ補完関係にあります。MaaSを導入しやすい土壌があるわけです。
加地
なるほど、確かにそれは四国ならではの取り組みですね。
四之宮
サブスクリプションという方式もあります。四国にはもともと、オール四国レールパスという、四国内の6つの鉄道会社が乗り放題になる仕組みがある。紙ベースのアナログな仕組みですけどね。この仕組みを発展させると、月額固定制で電車からバスまで乗り放題にしてはどうか、といった発想も生まれてくる。さらにレンタカーやタクシーまで巻き込み、観光客向けとしても生活する人々にとっても利便性の高いMaaSができれば、とても面白いことになると思います。
もちろん、システムを実現するには地域の関係者との関係づくりは不可欠で、さらにICTを駆使した検索サービスの構築が欠かせない。そういうことに取り組みたい会社は四国内だけでなく、全国にたくさんある。そうした会社と連携し、四国というフィールドでチャレンジしてみたい。そういった様々なトライアルをやるのに、四国はうってつけの環境と言えるかもしれません。
加地
課題先進地域だからこそ、そうした新たな取り組みをしていかなければならない。それをできる土壌が四国にある。そういうふうに考えると、四国の可能性は大きそうですね。


四之宮
場合によっては、特区を敷いてでもやる価値があるのではないでしょうか。MaaS特区、あるいは新たな公共交通のモデルづくり特区とでも呼べばいいですかね。もちろん、ここで考えているMaaSは交通だけでなく、例えば食品や日用品の購入とか、あるいは観光地でのレジャーとか、生活全般を包含することが考えられる。そうなれば地域経済とのタイアップとか、いろんなことが実現できるようになるでしょう。せっかく四国という、新たなサービスの試行錯誤に最適な地にいるのだから、ぜひやっていきたいです。
佐々木
そういった新たな発想のチャレンジはとてもワクワクしますし、私たちもできることはお手伝いしていきたいと思います。今日は興味深いお話をありがとうございました。

四之宮 和幸

四国旅客鉄道(株)常務取締役(総合企画本部長)

1989年、京都大学大学院(交通土木工学専攻)修了。同年4月より四国旅客鉄道(株)に入社。高架工事、橋梁・トンネル検査といった土木部門を担当する。2001年には関連の徳島ターミナルビル(株)に出向し、ホテル・駅ビル運営などを経験。2004年に復帰後は、管理職として様々な部門を歴任。2017年に取締役。2020年には現職である常務取締役総合企画本部長に就任。愛媛県西条市出身。

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