INTERVIEW2022.10.19

誰かに貢献できたという手応えは、四国の方が大きい。ー高松帝酸(株)・太田貴也氏ー

INTERVIEW2022.10.19

誰かに貢献できたという手応えは、四国の方が大きい。ー高松帝酸(株)・太田貴也氏ー

産業用・医療用ガスを中心に、関連する生産設備・医療機器・消耗資材の提供まで幅広くカバーする高松帝酸。同社は2030年をゴールに定めた中期経営計画「V2030」を策定するにあたり、従来とは大きく手法を変えました。経営陣が方向性を定めるのではなく、社員に参加してもらい、将来のあるべき姿を考えるというスタイルで策定されたのです。
今回は、V2030で示された同社の働き方・会社のあり方に触れながら、四国ならではの働く価値について同社専務・太田貴也氏と共に考えます。

経営者の決めることが、幸せな未来につながるわけではない


佐々木
高松帝酸は今年、10年先である2030年の姿を見据えた中期経営計画「V2030」を発表されました。この策定にあたり、従来とは異なるやり方をとられたそうですね。
太田
従来は、経営トップが大まかな方向性を示し、各部門の責任者が具体的な肉付けをしていました。恐らくどの会社も、似たような流れではないかと思います。
しかし今回は「方向性を示す」のも「責任者が肉付けする」のも止めました。その代わり、60名の社員を11のグループに分け、1グループ1項目について討議を重ね、各論まで詰めてもらったのです。
佐々木
社員中心で進めたということですね。経営陣のみなさんはどう関与されたのですか?
太田
私が事務局として参加したものの、ほとんど口出ししていません。私が社員たちに言ったのは、3つだけです。

「幸せな未来を目標とする」
「議論はいいが、他人を攻撃してはいけない」
「誰か1人が議論をリードするのではなく、グループでの合意形成を大事にする」

私が「幸せな未来というのはそもそも…」などと語り始めると、社員は決定事項と捉えてしまいます。だから、幸せな未来の中身は、社員それぞれに考えてもらいました。
各グループが結論を出した後は、60人全体にアンケートを取って、考え方に齟齬はないか確認する、などの段階も踏みました。当社の約3分の1にあたる社員に聞いて異論が出ないなら、まあ間違った考えではないでしょう。
佐々木
そのような思い切った任せ方をして、不安はなかったのですか?
太田
初めての取組みですし、どのような着地になるかの不安はありました。「計画→設計→実装→テスト」を小さな単位で繰り返すアジャイル開発を、中経策定に適用したようなものですからね。それでも任せてみようと思ったのは、私自身が「グループプロセス」という考え方をある研修で学んだからです。
研修では、見知らぬ者同士がその場でチームを組み、いろんなテーマで解決策を議論します。その研修の評価ポイントは、解決策の良し悪しではありません。みんなが議論に参加し、意見の食い違いはあれ、前向きに進めようとしたかどうか、です。だから良いアウトプットのあったチームでも、1人だけがぐいぐい議論を引っ張るようなプロセスだと、驚くほど低評価なんです。いろんな人の考えを理解し、合意を得ながら前に進めることの大切さを痛感しました。
経営者がこうすると決めたからといって、幸せな未来が降ってくるわけではありません。指示に従うだけの体制で、社員が当事者意識をもって意欲的に動けるようになるはずもない。そういう意味でも、任せて良かったと満足しています。


ダイバーシティはまだまだ。だからこそ、敢えて宣言した。


佐々木
V2030の一番最初のページに記載された「みんなで考える」「幸せな未来に向けて」「多様性に感謝」という3つの基本方針は、みんなで取り組んだからこそのビジョンであることを示しているのですね。
UNIT1の「将来の付加価値創造」では、AIやIoT、Webコンシェルジュなど、特にデジタル領域の強化を挙げられています。
太田
当社はFAシステムの提供も行っていますが、AIやIoTなどと連携した高度な技術にも対応しなければなりません。一方、バイオやエネルギーにおける新素材や次世代技術を発見・開発する上でも、DXによる業務の効率化、部門間連携の向上は欠かせないと思います。
V2030に産業用ロボットやFA分野の強化を明確にうたうことで、予算と人材をつける根拠を明確化し、堂々とやっていこうという意思の現れでもあります。前回のV2020の時も「医療」をビジョンに入れたことで、医療ガス事業が本格化しましたから。外形を整えるのは大事です。
佐々木
UNIT2では社内環境の最適化について触れておられます。特にダイバーシティに力を入れられる印象ですね。
太田
正直に言うと、ダイバーシティもワークライフバランスへの取り組みも、まだまだです。社員も同じように感じるので、敢えて宣言したのでしょう。
「有給取りたい」「子どもの迎えがあるので定時で退勤したい」という声に対し、上長が「生意気な」なんて言うのは、もはや時代遅れです。V2030にそれを入れることで、上長も文句が言えなくなります。男性が育児休暇を取るのも、プライベート優先で早退するのも、当たり前。そういう風土にしていきたいですね。

高松帝酸にしかできない、地域共生・共創の形がある


佐々木
UNIT3では地域社会とのかかわりをテーマとされています。地域との共生を、これまで以上に重視していきたいということでしょうか。

太田
自分たちだけ良ければ、という態度は、地域で事業を営む以上、許されません。地域に対しても、あるいは広く地球全体を見渡しても、プラスになれる存在でないと。今はSDGsに取り組む企業も多いですが、私たちのような地方の企業は遥か以前から、地域共生を考えてきました。
佐々木
最新技術情報を発信する「テクノポリス」の強化も挙げられていますね。
太田
四国にいると情報格差があって、先端技術に触れる機会が少ないですからね。わざわざ東京にいかなくても、四国で話が聞けるなら、その方がいい。
オンラインセミナーでできることも多いですが、「ネットでは言えないけど」「ここだけの話だが」という技術の裏話を聞けるのが、対面の良さですよね。そういうチャンスを増やそうということです。そうすれば、新規メーカーや既存顧客の別部門の技術者など、普段お会いできていない方々との出会いもある、というメリットも得ることができます。
佐々木
地域の異業種交流の枠組みである「DAIS」にも参加されていることからも、高松帝酸の地域共生に対する思いは強いと感じます。

※DAIS:四国の社会人、学⽣が一緒になり、地域の社会課題の解決に取り組む研修型プログラム(https://www.dais-p.org/
太田
高松帝酸にしかできない地域共生・共創の形があると思うんです。
例えば、2021年に希少糖の量産装置を開発しました。これは本来、香川大学が行っていたものです。対象とする糖がうまく作れず困り果てていたところ、当社が研究用の水素を提供していた縁で、大学から相談が来ました。「この条件で糖が作れるか?」と尋ねられた弊社の技術者は、半年で作ってしまいました。大学の先生方は「こんな量のタリトールなんて見たことがない」と驚いていたそうです。技術者からすると「もっと早く相談してくれれば」という話ですが。
そういうことが、結構多いのではないでしょうか。特別な技術を持つ企業があるのに、他の企業や大学はその企業のことを知らないとか。タッグを組めば何かが起こるかもしれないのに。
DAISに参加するのも、そんな思いがあるからです。もとは顧客からの誘いでしたが、ここでの交流がきっかけとなり、新たな取引がスタートした例もあります。事業にも好影響があるし、社員教育にも、地域貢献にもなる。当社にとってはありがたい活動です。
佐々木
高校生への出前授業も行われているんですね。
太田
いろんな人とのつながりから、声がかかりまして。年間数回程度の予定だったものが、評判が良かったのか、最終的には数十回も授業を行うことになりました。
現場に活きる科学や技術について知ってほしいというのが第一の目的ではありますが、そういった技術を担う会社が地元にあると高校生に気づいてもらうと、いずれ就職の選択肢として考えてもらえるかもしれません。当社に来なかったとしても、理系で学ぶ高校生の多くが製造業に行くでしょうから、将来的に当社の顧客となる可能性もあります。このようなご縁から当社の名前を覚えていてくれるというのもうれしいですね。

「役立てた」という手応えは、四国で働くからこそ大きい


佐々木
社員の意欲を促す環境の整備や、地域共生を重視する姿勢など、四国に根ざす企業として様々な取り組みをされておられますが、そんな太田さんは、四国でビジネスすることの価値について、どう考えていますか。
太田
まず環境整備としては、今回、新規事業領域であるフッ素ガスを使った表面改質を行う「フッ素ガステクノロジーセンター」を設備投資して開設しました。この施設の2階部分をつくるかどうかは議論が起きたところになるんですが、この2階部分ができたことでの新たな発見として屋島と瀬戸内海が一望できるロケーションに気が付きました。どこかで聞いた話ですが、「海が見える」ことは、社員の心理的安定性を高める上で重要な項目の一つなるそうです。特に瀬戸内海は穏やかで見ていて癒されるところがあり、とても実感があります。住み心地もいい。市街地と海がこれだけ近い町は、意外と日本にはないようです。もちろん職場も近い。日常的に必要なものはたいてい手に入る。
海が見えて、生活と仕事の利便性が整っている。そういう良さがあります。
佐々木
仕事面ではどうでしょう。少子高齢化による市場の縮小という問題もありますが。
太田
人口動態から考えると市場は確かに小さくなりますが、じゃあ事業がそれにあわせて小さくなっていくのかと考えるとそういう風には思っていません。我々がビジネスで担っているシェアも100%というわけではないので、そうであればまだまだやれることはあると考えています。また新たな領域へのビジネス展開も常に仕掛けていて、フッ素の表面処理技術やロボット事業など次世代分野でも伸びしろを感じます。
また仕事の意義として強調しておきたいのは「誰かに貢献できた」という実感の大きさですね。地方では、5年、10年と仕事するうちに、知り合いが増えていきます。コミュニティーがそう広いわけではないので、真面目にやっていれば関係性が広がるし、いろんな人に伝わっていきます。顔も見えない相手との仕事ではないので、「役立てた」という手応えがより強いのだと思います。
佐々木
東京や大阪だと、ゼロが1つか2つ多いビジネスを手掛ける人も多いでしょう。そういう人が四国に来て、仕事の規模感は小さくなるのだけど、貢献できたという手応えは、むしろ大きくなったと語る人が少なくありません。それは顔の見える相手と仕事しているからですね。
太田
収入についても都会は高いが、物価が違うし、何より都会の通勤時間は圧倒的に長い。生活の中で自由に使える時間は、田舎の方が多いはずです。これをお金に換算すると、額面ほどの収入差はないように思います。
何より、仕事の自由度が高い。ウチみたいな規模の会社なら、「こうやりたい」という時の判断も早い。いろんなことができるし、イノベーションも起こりやすい。そこに面白さを感じる人なら、働く価値を見出すのも難しくないと思います。
佐々木
高松帝酸のような姿勢の会社が、四国にはたくさんある。そのことを、私たちももっと多くの転職志望者に知らせていこうと思います。
本日はありがとうございました。

太田 貴也

高松帝酸(株)専務取締役営業本部長

1981年、高松市生まれ。高校卒業まで高松で暮らす。2004年、上智大学理工学部物理学科を卒業後、フランス資本の日本法人であるジャパン・エア・ガシズ(株)(現在の日本エア・リキード合同会社)に入社。
2008年、高松帝酸(株)に入社。営業、技術、総務と様々な部門の仕事を経験する。2013年、取締役。2020年には専務取締役営業本部長に就任。

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