GROUP DISCUSSION2021.3.1

地方のクリエイティブこそ面白い。-クリエイターから見た四国の可能性-

GROUP DISCUSSION2021.3.1

地方のクリエイティブこそ面白い。-クリエイターから見た四国の可能性-

コーポレートサイト制作をご担当いただいた村上モリロー氏と一村征吾氏。制作過程の中で感じた独特のキャリア感とクリエイティブ領域からみた四国の可能性についてお話を伺いました。

ウェブサイトリニューアルの制作過程で感じた共通点


佐々木
今回、コーポレートサイトのリニューアルにあたって、デザインをご担当いただいた村上さんと、コピーを担当いただいた一村さんのお二人に、クリエイティブ業界からみた四国の可能性ということでお話を伺いたいと思います。今日はどうぞよろしくお願いします。
村上一村
よろしくお願いします。
佐々木
まず初めに、お二人の経歴をお聞きしたいのですが、村上さんはどのような経緯でデザイナーの仕事をするようになったのでしょうか?
村上
実は結構、紆余曲折を経て今に至っています。ファッションデザインの学校を卒業後、アパレルブランドで販売の仕事に就きましたが、思ったことは口に出してしまう性格で、お店として売りたい商品があっても、お客さんに「そちらはあまり似合ってないですね、こちらの方が似合っています」と本音で言っていたので、店長に怒られました(苦笑)。でも自分に嘘をついてまで働きたくなかったので3カ月で退職して、その後は料理業界を志した時もあったのですが、最終的にはやはりデザインの仕事がしたいとデザイン事務所に入り、30歳の時にデザイナーとして独立しました。
佐々木
かなりアウトローな道のりだったんですね。ただ、それらの経験は今の村上さんの魅力に繋がっているような気がします。「似合ってない」とお客さんに言ってしまう率直さは今に通じている部分ですよね。
村上
不器用なだけなのかもしれないですけど。
佐々木
村上さんは上辺や建前ではなく、何が重要なのかという本筋を見つめているような感覚があります。今回、コーポレートサイトの制作を依頼するために、いくつかの会社に声をかけていたのですが、提案の前に代表に会って話がしたいと言っていただいたのは村上さんだけでした。
村上
何のためにサイト制作を必要としているのか。それをお聞きしない限り、提案は出来ません。それを知るためには、直接代表のお話を聞くのが一番早くて正確なんです。転職エージェントだからこんなデザインで…と自分の経験則や想像の範疇だけで完結する提案はありえません。
佐々木
村上さんが仕事を受ける際の決め手は、どんなところですか?
村上
「クライアントが本心で言っているかどうか」です。人は言おうと思ったら嘘でもなんでも言えるけど、本心で言っているかどうかはわかります。事業でも新商品でも、本当にそれを良いと思っていない担当者との仕事は、結局のところ自分のクリエイティブも嘘になりますから。
佐々木
我々が企業様から話を聞く時と、近いものがありますね。何を目指し、何が課題だと感じているのか、またその課題を解決していくためにはどんな人が必要なのかを一緒に考えますが、その会話の温度感が高い会社ほど、人を大切にされている印象があります。
村上
佐々木さんと打ち合わせをさせていただいた時は「転職エージェント事業は手段で、目的は四国の活性化にある」という話が印象的でした。弊社もクリエイティブを手段に、香川をはじめ地方が抱える課題の解決をしたいと考えているので、目指しているものに共通点があるようにも感じました。

東京と香川、それぞれを経験したからこそ見えた香川の魅力


佐々木
一村さんは東京から香川にIターンで移住されたと聞いていているのですが、どういった経緯で四国に来られたのですか。
一村
東京では広告関連の会社を中心にコピーライターとして仕事をしてきて、変わったところで言うと小説家としてもデビューしました。ただ、心のどこかにずっと東京で働くことが正解ではない感覚があって。人も情報も過剰に溢れすぎている印象があったんです。一度は都心を離れて、新しい土地で一から始めてみたい、という想いもあり、四国に移住を決めました。当時は、香川に知り合いはいないし仕事も未知数、とリスクの高い状況からのスタートでしたね。
佐々木
仕事を決める前に移住を決めたんですね。仕事はどうやって探したんですか?
一村
一応、香川のクリエイティブ系の会社も探しましたが、東京に比べるとどうしても給与が低い。私の場合は、条件で満足できる転職先がなかったので、もう会社に属するのではなく独立してしまおうと考えました。
佐々木
なかなか思い切りましたね。
一村
正直、生活していくことだけ考えれば、仕事はなんでもあると思っていたので、不安もなかったです。なんとかなるだろう、と。結局、コピーライターとして仕事を受けた最初の案件から、カメラマンが私に興味を持ってデザイナーを紹介してくれて、その人がまた別のクリエイターを紹介してくれて。繋がりが一気に広がることで仕事もどんどん増えていきました。そのコミュニティの近さというのは地方の魅力ですね。
村上
一村さんと初めて会ったときの印象はすごく残っています。おもろそうな人が香川に来たぞって(笑)。
佐々木
そうなんですね(笑)。ちなみに東京時代と比較して、香川での仕事はいかがでしたか?
一村
もしかしたらクリエイティブの面白さを心の底から感じたのは、香川に来てからかもしれません。東京での仕事は、まず「どんなタレント・モデルを起用するか」という話から始まることが多いんです。一方、香川ではそこまで予算をかけられないけれど、その分アイデアやクリエイティブの力で勝負しなくてはいけない。その醍醐味は、東京以上のものがあると感じています。東京のような案件規模が大きいと、関わる人も多くなりますし、これが自分の仕事という感覚や面白味も薄くなりがちですが、香川ではひとつひとつの仕事における自分の責任や介在価値が大きいので、すべての案件に思い入れを持って向き合うことができています。
佐々木
クリエイティブという分野に限らず、UIターンをされた方からよくそういうお話を伺うことがあります。東京にいる時の方が大きな金額を扱っていたけれど、四国で仕事をしている時の方が充実感は大きい、と。
一村
それに香川では経営層と顔を見ながら仕事ができるので、話も早いし、面白いものが作りやすくなるんです。それは金額にはない魅力でした。東京では誰もが知っている大手企業の仕事を担当したとしても、経営者と膝を付き合わせて話をすることはありません。でも香川であれば経営者の想いや熱意に直接ふれることができる。それは自分の中で大きな財産になっていますし、四国にこんな面白い経営者や会社があるんだ、と知ることができたのは嬉しい想定外でした。仕事をすればするほど、都心にも負けていない会社が四国には沢山あるぞ、と勝手に四国愛を募らせています(笑)。

クリエイターが考える「四国で働く価値」


佐々木
一村さんは現在、東京と香川の二拠点でお仕事されているんですよね。
一村
そうですね。子どもが生まれたのを機にお互いの親の近くにいた方がいいのではないかと関東に戻ったのですが、こんなに面白い香川の仕事は絶対に続けたいと思っていました。それに昔から「場所を問わない働き方」を実現したいと考えていたので、都心か地方の二者択一ではなく、その壁をなくして両方で仕事や自分らしい暮らしができないだろうかと実証実験をしている感じです。ありがたいことに香川をはじめ、四国、岡山、広島、山陰と、仕事をいただけるエリアも広がっているので、最近では月の半分は中四国にいます。
佐々木
オンラインでのワークスタイルが普及したこともあって、都心と地方を行き来する新しい働き方は今後増えるかもしれないですね。
村上さんは今後、挑戦したいことはありますか?
村上
これまでもそうだったのですが、やはり「地方のクリエイティブの価値を上げる」というのが自分の中にある大きなテーマです。これまでは四国のクライアントも大手企業は、ひとまず東京や大阪の広告代理店に仕事をお願いする。逆に中小企業はどこにどう依頼をすればいいのか分からないというケースが多くありました。地元のクリエイターと地元の企業との間に、どこか壁がある気もしていたんです。だから、その壁をなくして、誰もが自由にクリエイティブを活用できる世の中をつくろう、と新たな取り組みをはじめています。
佐々木
社名を「人生は上々だ」(旧社名はスクルト)に変更をされましたが、すごく思いきった社名ですよね。(笑) これにはどういう想いが込められているんですか?
村上
よく言われます(笑)。自分たちだけでなく、地域のクリエイター、企業、個人事業主と、関わる全ての人の人生を上々にしていきたい、と。クリエイティブが持つ力というのは、商品も、企業も、地域社会も、もっと良い方向に変えていけるパワーがあると信じています。そのクリエイティブの力を、地元の農家さんや漁師さんでも気軽に活用できる世の中になっていければ、もっと未来は面白くなるのではないかと考えています。
佐々木
クリエイティブで四国が変わっていければ、より多くのクリエイターがこの地に集まってくるかもしれないですね。


一村
ある意味、四国は都心に比べてライバルも少ないので、チャンスだと思いますよ。他にはない経験やキャリアだったり、得意な分野だったりがあれば、東京よりも勝負しやすいのは間違いありません。小さなコミュニティだからこそ、目立ちやすいというか、情報も広がりやすいので、良い仕事さえしていればすぐに色々なところから声がかかります。
佐々木
地方には良くも悪くも手つかずの課題がたくさんあるので、「変える」余地やチャンスがたくさんあると私も感じています。ただ一気に変えるというよりも、信頼を積み重ねて基盤をつくりながら、徐々に変えていくことが大切だと思いますね。
村上
クリエイティブを活用しきれていない企業がまだまだ多いというのは、日本全国どの地方でも同じことが言える課題です。最近は国からも、デザインの力を経営手法に取り入れる「デザイン経営」を推進する動きがありますが、地元のクリエイターが地元の企業に対して、もっとデザイン経営をサポートしていける世の中になれば、本当の意味で地方が元気になると思っています。
一村
地方が変われば、日本が変わるし、日本の地方から世界を変えるようなイノベーションだって起こりうる可能性もありますよね。
村上
シリコンバレーも、いわばアメリカの地方ですから。大きな話かもしれませんが、香川や四国が、次のシリコンバレーになるためにはクリエイティブの力が必要不可欠だと思います。そういったチャレンジができるのも、クリエイターから見た四国ならではの「働く」価値かもしれません。
佐々木
非常に興味深い話をありがとうございました。クリエイティブの力で四国が活性化されていく未来がとても楽しみになりました。また今日の話のように、あらゆる業界、分野などの切り口で、“四国ならではの「働く」価値”があると感じているので、これから様々な形で発信を続けていきたいと考えています。今後ともよろしくお願いします。


村上モリロー

(株)人生は上々だ 代表/クリエイティブディレクター

ブランディングデザインを軸に様々な領域のデザインを手がける。2013年にクリエイター集団「瀬ト内工芸ズ。」を発足し、クリエイターと企業をつなげる「瀬トBマッチング。」や、学生限定のキャッチコピーコンテスト「平賀源内甲子園」などのイベントを開催。瀬戸内国際芸術祭2016、2019では盆栽師 平尾成志氏とのコラボ作品を発表。Lexus New Takumi Project2016にて桐下駄「ZANSHIN」を発表し、「注目の匠」の一人に選出される。瀬戸内デザインアワードでは総合ディレクターを務めるなど、地域のクリエイティブの価値向上のため、さまざまな領域で活動している。香川短期大学 非常勤講師。RNCラジオ「CHIT CHAT RADIO」木曜日パーソナリティー。

一村征吾

コピーライター・プランナー

倉敷市生まれ、千葉市育ち。フットワーク良く日本全国を駆け巡るコピーライター・プランナー。東京時代は、CM制作会社、デザイン学校の広報を経て、広告代理店でコピーライターとして12年従事。その間に執筆した長編小説が、日米同時デビューが約束された「ランダムハウス講談社新人賞」を受賞し、小説家デビュー。日本では、村上龍氏の推薦文で単行本が刊行される。2013年より香川県に移住し、フリーランスのコピーライターとして活動。2018年からは拠点を高松と東京に置き、場所に縛られることのない自由な働き方にトライしている。

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