INTERVIEW2022.11.2

徳島・木頭を奇跡の村へ。地方創生の新たなカタチ。ーKITO DESIGN HOLDINGS(株)・藤田恭嗣氏ー

INTERVIEW2022.11.2

徳島・木頭を奇跡の村へ。地方創生の新たなカタチ。ーKITO DESIGN HOLDINGS(株)・藤田恭嗣氏ー

電子書籍流通市場最大手の(株)メディアドゥ(本社:東京都千代田区/東証プライム市場)。創業者であり代表取締役社長CEOとして、新たな企業価値の創出に取り組んでいるのが藤田恭嗣氏です。藤田氏は徳島県那賀町木頭出身であり、木頭での地方創生事業のマネジメント会社KITO DESIGN HOLDINGS(株)を設立するなど、故郷の活性化にも積極的に取り組まれています。また、2020年には起業家支援団体「一般社団法人徳島イノベーションベース(TIB)」を設立し、代表理事に就任。地元・徳島での起業家支援活動を様々な角度から推進しています。藤田氏の思い描く起業家・経営者としての社会貢献、そして徳島・木頭における地方創生への想いなどを伺いました。

徳島・木頭での地方創生の取り組み


吉津
先日、初めて木頭に訪問させて頂きました。徳島市から車で約2時間半、「四国のチベット」とも呼ばれる木頭ですが、本当に自然豊かな環境でとても素晴らしい場所でした。また、「未来コンビニ」や「CAMP PARK KITO」にも訪問して、とても面白い場所と感じました。まずは木頭での地方創生事業についてお聞かせいただけますでしょうか?
藤田
まずは木頭にお越しいただき、ありがとうございます。木頭の魅力を感じて頂けたようで大変嬉しいです。私が木頭での地方創生事業を始めたのは2013年です。メディアドゥが東証マザーズに上場した年なのですが、これからは自分自身が生まれ育った故郷に貢献したいと思い、まずは木頭ゆずの栽培・加工品販売を行う「株式会社黄金の村」を設立して事業をスタートしました。その後2017年にKITO DESIGN HOLDINGS(株)を設立しました。現在では、温泉やレストランも完備した、ハイエンドなグランピングが楽しめる山の中のリゾート「CAMP PARK KITO」、“世界一美しいコンビニ”「未来コンビニ」や、空き家を改修したゲストハウス「Next Chapter」の運営など多岐に渡る事業を展開しています。今後も木頭では新たなプロジェクトをいくつか計画しており、チャレンジを続けています。


吉津
木頭は人口1000人程度の限界集落ということもあり、地方創生へのハードルがとても高く感じます。
藤田
確かに木頭は限界集落ですが、魅力にあふれた場所です。豊かな大自然や文化が残るこの地から、木頭で暮らす人・訪れる人、「全ての人が笑顔になれる、奇跡の村」を創造することが私達のミッションです。地方創生の先進事例になるべく取り組んでいますが、簡単なことではありません。だからこそ、取り組む価値があります。
吉津
最初にゆずの事業からスタートされたのは、何故でしょうか。
藤田
もともと父親が木頭ゆずに深く関わっていたことに加えて、木頭に与える影響範囲が一番大きかった為です。何か新しい事業を興して従業員を雇用する、という形で木頭に貢献することもできますが、ゆずの事業であれば雇用創出だけではなく、もともといらっしゃる地元の農家さんからゆずを買い取らせていただく、などの形で協働ができることが大きかったです。また、木頭ゆずは徳島県産品で初めてGI「地理的表示保護制度」に登録され、昭和52年に果樹としては初めて朝日農業賞を受賞した日本一のゆずブランドです。ただ、品質は良いにも関わらず、ブランディングに課題がありました。そのため、事業を軌道に乗せるには時間がかかると考えて、まずはゆず事業の本格化から取り組み始めました。
吉津
木頭での地方創生事業に取り組み始めて、約10年となります。手ごたえはいかがですか?
藤田
各事業が順調に成長を続けており、今後の見通しも立ってきました。10年かかりましたが、ようやく事業立ち上げという第一フェーズが終わりを迎え、第二フェーズに入るタイミングとなりました。これまでは各事業がそれぞれの成長にコミットしてきましたが、今後はKITO DESIGN HOLDINGSを中心として総合力でグループの価値を高めていく時期と考えています。また、各事業が有機的に連携して成長を続けていけるような仕組みづくりを進めていきたいと思います。

3世代で暮らすことの価値とBS思考


吉津
UIターンを決断された人は、何かしらの価値観の変化を感じていることが多いです。特に子育てなどのライフステージの変化により検討される方が多いのですが、藤田さんの考えるUIターンの価値は何でしょうか。
藤田
おじいちゃん・おばあちゃんも含めて3世代で暮らすことに価値を感じています。私自身が3世代で暮らして育ったこともあり、愛情も含めていろんなことを学びました。地方から都会へ出て働き、そこで子供たちを育てることを否定するわけではないのですが、私からすると「もったいない」と感じます。子供たちがおじいちゃん・おばあちゃんと過ごせずに育つことで、自分文脈では語れるが、血筋文脈では語れない存在になってしまうと思うんです。例えるなら、根無し草、あるいは、糸の切れた凧のような存在に思えてしまうんです。
吉津
確かに自分文脈で語れる人は多いですが、地元への愛着心や貢献など、何のためにという目的観は育まれにくいかもしれませんね。
藤田
これは私の独特の感覚かもしれませんが、都会に出て働き・暮らすことは「PL思考」であり、短期的でフロー型のイメージです。一方、地方で暮らすことは「BS思考」であり、長期的でストック型というイメージです。人の幸せや成長に大きな影響を与える人間関係をBS思考で深められることが、地方で働き・暮らすことのメリットであり魅力だと思います。
※PL(Plofit & Loss Statement:損益計算書)、BS(Balance Sheet:貸借対照表)


吉津
おじいちゃん・おばあちゃんを含めて3世代で暮らすことによる、子供たちへの影響は大きいですね。また、私自身も東京から四国へUIターンしたのでPL思考・BS思考という感覚も実感がありますね。
藤田
私のアイデンティティーは木頭にあります。そのため、付き合う人についても、5年・10年後も関係を続けられる人とできるだけ時間を過ごすようにしています。必然的に昔からの友人・知人との関係性を大事にしています。もちろん新しく出会う人とも、関係を築き、学び合いもします。  
ただ、大事にしたい感覚としては、友達というよりも「同志」というイメージです。そのため、基本的にプライベートでは徳島の友人や名古屋の学生時代の友人たちとの付き合いが多くなっていますね。
吉津
藤田さんは全国的な取組みへも積極的に関与している方なので、意外な印象を受けます。
藤田
都会でどれだけ頑張っても、そこで流れる人間関係と、故郷での人間関係はまた違うと私は思っています。私も都会に出て働いていますが、今でも野菜を送り続けてくれる地元の人達がおり、応援してもらえる人間関係があります。いずれ私たちは年を取ります。年を取ることは100パーセント決まっており、みんな50才・60才・70才・80才と年を重ねていきます。なのに、幸せな将来の人生を長期的に設計しないのはもったいないと思うんです。木頭で地方創生事業に取り組んでいるのも、私が頑張ることでみんなを巻き込み、いろんな施設や事業ができるのを見て何かしらの希望や期待を感じ、みんなに木頭に帰ってきて欲しいからです。いずれ私は木頭に戻るので、これは自身の将来の為でもありますし、自らの経営・事業ノウハウを通じて少しでも地元に貢献したいと思っています。

地方は課題先進エリア。最先端の課題解決を通じた社会貢献。


吉津
上場企業の経営者として活躍されている藤田さんが、地方創生にそこまで取り組むのはなぜですか?
藤田
それが私なりの社会貢献だからです。私は世の中が求めていることが何なのかを常に考えています。地方は日本の課題が凝縮するエリアであり、地方創生は社会課題解決の最先端とも言えます。私自身が地方出身なので、当事者として課題解決に取り組むことができます。また、社会的なニーズの変化を捉える中で、自分の立場から最も貢献できる分野が地方創生だと考え、挑戦しています。
吉津
ちなみに、地方創生に取り組む上で大切なことはありますか?
藤田
これは地方創生だけではないのですが、大きなことを成し遂げるには「共感・理解・スピード」が必要です。もともと父親がゆず栽培に関わっていたこともあり、まずはゆず栽培の事業から私財と事業ノウハウを投じてチャレンジを始めました。この私の取組みをスピーディーに共感・理解してくれて、そこからインスピレーションを受けた県外の経営者が、同様にそれぞれの地元で地方創生に取組み始めています。また、徳島県内においても、首長や議員、学校の先生たちから私の話を聞きたいと言って頂くことも増えました。講演などの機会を通じて、様々なことを皆さんに感じて頂き、伝えたいメッセージや影響力の広がりを感じています。もし、取り組むテーマが地方創生ではなくブロックチェーンだったら、ここまで多くの人に共感を得られていないかもしれませんね。(笑)
吉津
当事者としての想いや共感を得られるストーリーがあるかは大事ですね。
藤田
私は徳島・木頭の出身だから木頭の地方創生はできますが、他のエリアの地方創生はできません。そして、木頭の次に主体的に関われるのは徳島県という視界になるので、徳島県の活性化に向けて、一般社団法人徳島イノベーションベースを2020年に設立して、代表理事として取り組んでいます。

「起業家が起業家を生み育てる」徳島イノベーションベース


吉津
私が藤田さんと初めてお会いしたのは、徳島イノベーションベース(以下、TIB)の月例会でした。この取組みについて教えて頂けますでしょうか?


藤田
一般社団法人徳島新聞社、四国放送株式会社、株式会社阿波銀行、株式会社徳島大正銀行、株式会社メディアドゥの5社共同で、徳島県内の起業家や社会人、学生などアントレプレナーシップ(起業家精神)を持つ方々を先輩起業家らが育成・支援する目的で設立しました。また、様々な学習機会を提供する拠点となるコワーキングスペースをアミコビル東館9Fに開設して運営しています。
吉津
「起業家が起業家を生み育てる」というコンセプトについてはいかがですか?
藤田
世界的起業家組織「EO(起業家機構)」との連携を最大の特色としています。私自身がEOという経営者ネットワークを通じて、多くの事を学ぶことができました。そして、日本で最も歴史が長く、会員数最多支部である「EO Tokyo」(現・EO Tokyo Central)第24期会長を務めたことで、EOの起業家育成の仕組みの素晴らしさを実感しました。EOには、1987年にアメリカで設立されて以来30年以上にわたって培ってきたノウハウがあります。16,000名もの経営者が学び・成長する仕組みを活用することは、地方における起業家支援としては新しい取り組みです。各地で活躍する国内EOメンバーの方々を講師にお招きし、徳島に先駆的な経験・知見をお伝え頂いています。
吉津
EOのメソッドを活用できるのが特徴なんですね。なお、藤田さんはどのような課題意識のもと、TIBを立ち上げたのですか?
藤田
地方活性化は行政や地域の力に加え、起業家の力を活用することも大事だと考えています。若い方々や企業経営者が「情報の質と量」の豊かな都会に流出してしまうことが地方の課題です。こうした課題を解決するには、地方に根差したアントレプレナーシップを持つ方々が増えること、そして彼らが新たな知識やソリューションを持ち寄り、地方における「情報の質と量」を向上させることが必要です。また、リスクを負う起業家が成長し続けるためには、お互いの経験を共有し切磋琢磨できるセーフティネットを作っていくことも重要です。この仕組みこそ地方には必要であり、このメソッドを広めたいと考えてTIBを設立しました。
吉津
確かに「情報の質と量」を向上させることは地方の課題ですね。都市圏から四国へUIターンした人と会話していて、都市圏のような人的交流する場があまりないという課題を良くお聞きします。特に四国の場合は車通勤の方が多いので、意識しておかないと自宅と職場の往復ばかりになりやすいのかもしれません。さて、イノベーションベースの取組みは徳島からスタートしましたが、今では全国に広がっていますね。
藤田
このメソッドをマニュアル化して提供し、他県版イノベーションベースとしての展開が加速しています。今年に入り四国では高知・愛媛も立ち上がり、今(2022年9月末現在)では全国18エリアに拡大しています。また、来年には30エリアまで拡大する見込みですので、各エリアの連携に向けて全国組織も設立する予定です。
吉津
イノベーションベースの立ち上げにおいて、重要なことは何ですか?
藤田
EOとの連携に加えて、地元メディアや金融機関、大学、行政との連携がイノベーションベースの活動において欠かせません。メディアを通し起業の意義を知ってもらうこと、地元企業との繋がりや資金面において金融機関に支えとなってもらうこと、起業を志す学生を大学の仕組みを活用しながら支援すること、行政と幅広い分野で互いのノウハウを提供し、活動に広がりを作ること。こうした連携が、イノベーションの輪を広げ、地方から新たな事業の芽を生み出していくことに繋がります。
吉津
代表理事として取り組むことはスケジュールも含めて大変だと思いますが、いかがですか。
藤田
月例会があるので、みんな毎月地元に帰っています。また、月例会の講師はEOメンバーが中心に担うため、講演にて全国へ行くことも多いです。確かに大変な面もあると思いますが、地方の現状や課題など色々なものに触れる機会となり、刺激を与えるだけでなく貰う機会にもなっており、みんな勝手にインスパイアされていくんです。(笑)また、イノベーションベースの取組みを通じて、「地方出身の経営者が成功したら、自身の地元で地方創生に取り組む」という流れができたことが嬉しいです。起業家が地方創生に一役買えることに起業家自身が気づき、地元のメディア・金融機関・大学・行政と「パス」をつくり、共に取り組むことができれば、これまでとは違う流れが地方に創出できると考えています。


吉津
TIBの取組みを通じて、変化の流れは出てきていますか?
藤田
変化は確実に生まれてきています。実際にTIBのメンバーにおいても、約10名の方がTIB参加後に起業して挑戦を始めています。決して特別な人ではなく「普通の人」だった人が、「情報の質と量」が変わることや「仲間」ができることで意識が変わっていき、起業家として挑戦を始めているんです。また、個人経営の方が法人化を行い、積極的に投資して事業推進に取り組むなどの動きも出てきています。
吉津
私も何度かTIBの月例会に参加させていただきましたが、会場の熱気もすごいですね。参加してみて、私は刺激を得ることで視座が高くなるような印象を受けました。そして、「起業家が起業家を生み育てる」ことが現実に起こっていますね。
藤田
本当の起業家は、「人の心に火をつける」ことができる人だと思っています。起業家がやりたいことは、楽をしたい・お金儲けしたいといった話ではなく、「世の中を変える」ということであり、それこそがエンジンです。個人だけでは達成できないことが多いからこそ、いろいろな人を口説いて、チームビルディングをし、自分の大義を果たそうとします。起業家それぞれの大義が「会社」という枠を超えて「地域」に拡大していくことで、地域活性につながっていくと信じています。
吉津
「世の中を変える」というエンジンを持った起業家が増えていくことで、地域が大きく変わっていく可能性を感じるインタビューとなりました。そして、そうした起業家を私もしっかりと人材の面からサポートしていきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。

藤田 恭嗣

KITO DESIGN HOLDINGS(株) 代表取締役社長

徳島県那賀町木頭生まれ。1994年大学在籍中に創業。1996年に有限会社フジテクノを設立し、1999年に株式会社メディアドゥを設立。2006年より電子書籍流通事業を開始し、2013年に東証マザーズ上場、2016年東証一部へ市場変更(現在は東証プライム市場)。CEOとして経営戦略、特に新たな企業価値の創出を行っている。
徳島での取組みとしては、2013年に木頭ゆずの栽培・加工品販売会社である株式会社黄金の村、2017年には木頭で地方創生を行うKITO DESIGN HOLDINGS株式会社を設立。また、起業家支援を目的とした一般社団法人徳島イノベーションベース(TIB)を2020年に設立し、代表理事に就任。2022年に徳島県ゆかりの企業23社が出資するプロバスケットボールチーム運営会社・株式会社がんばろう徳島を設立し、代表取締役に就任。様々な取組みを通じて、起業家としての地域活性に取り組んでいる。

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