恩返しをするため、香川にやってきた
- 四ノ宮
- M&Aへの積極的な取り組みによりエネルギー、フィットネス、介護、フードなど事業のコングロマリット化を推進しているヤマウチグループですが、2024年1月のプロバスケットチーム「香川ファイブアローズ」の資本参画も話題となりましたね。
- 岡本
- 私は高校を卒業後、アメリカの大学へ進学、大学院で組織論やリーダー論を学びました。大学時代はずっと野球をやっており、チームメイトにはメジャーリーグに行った者もいます。私の住んでいたスポケーンという町は、住民数14~15万人程度の中堅都市です。そういう町にもプロスポーツチームがあり、住民はみんなチームのファンでした。メジャーに行けない選手でも地域リーグに参加し、アルバイトをしながらセミプロとしてがんばっていました。
一年中どこかで何かしらのスポーツイベントがあり、企業もスポンサードで盛り上げ役を担っている。そういうことなら自分にもできる、海外の経験が生きると思いました。スポーツは世代に関係なく、みんなで熱くなれるのが良いですね。
そんな経験もあり、2024年にプロバスケチーム「香川ファイブアローズ」運営企業の第三者割当増資を引き受けることにしたのです。地域のチームががんばることで、地域には一体感が生まれます。人々は「この地域に住んでいて良かった」と誇りを持つようになります。地域に立脚する企業は、人々のそういった心情を思いやり、具体的に貢献する義務があると思うのです。プロチームの支援も一つの手法かな、と考えました。
そんな中、「香川ファイブアローズ」と、サッカーチームの「カマタマーレ讃岐」が、廃校となった本社近くの中学校の校舎や体育館施設を練習場・トレーニング場として使用することが決まりました。廃校になると、普通は地域全体が元気を失うもの。そんなところにプロチームが行くことになり、地域の人々は再び盛り上がっています。
見学に来たBリーグのチェアマンも感激してくれ、「香川ファイブアローズをくれぐれもお願いします」と頭を下げられました。私は、香川ファイブアローズが地域にエネルギーを与える存在となってくれるよう、全力で支えていきます。
これは私にとって、「香川への恩返し」なのです。

- 四ノ宮
- 「恩返し」とはどういう意味でしょう?
- 岡本
- ヤマウチがオカモトグループ(北海道に本社を置き、多角的な事業を展開する総合サービス企業グループ)の一員となり、(株)オカモトに在籍していた私が代表取締役に就任することになったのが2011年です。ヤマウチの本社は香川ですが、私は2014年頃から東京オフィスに常駐していました。というのも、グループ会社の(株)ウェルネスフロンティアで運営していたフィットネス「JOYFIT」が全国にFC攻勢をかけていたからです。私はウェルネスフロンティアの代表も兼務していたため、東京にいる方が都合が良かったのです。
しかし、コロナ禍によりウェルネスフロンティアは大きなダメージを受けました。集客すること自体が憚られる状況で、業績は落ち込み、店舗をいくつも閉鎖せざるを得ませんでした。そんな中、グループ内で比較的堅調だったのがヤマウチです。ヤマウチの業績があったおかげで、私たちは何とか苦境を乗り越えることができました。
コロナ禍が一段落し、再び再スタートを切ろうとした時、私は香川という地方から全国展開している会社があることを発信していきたい、と思いました。だから私は東京オフィスを離れ、香川本社にデスクを置くことにしたのです。 - 佐々木
- 社長の席を香川本社に移されたのはいつからですか。
- 岡本
- 2023年です。振り返ってみると、自分には良い経験だったのかもしれません。コロナ禍以前はフィットネス事業がとてもうまく行っていて、経営者として思い上がっていたところがあったように思います。それが見事に打ち砕かれたのです。自信を失った時、香川に救われた。もう一度やり直せると思ったのです。そんな香川に恩返しをしなければいけない。そのためには私自身が香川に根を下ろす必要がありました。元気な会社は大都市圏だけにあるわけじゃない。地元に密着し、地域創生に貢献しながら、全国に元気を発信できる会社をつくると覚悟を決めたのです。
ハレーションを、成長のための刺激にする
- 四ノ宮
- 2011年にヤマウチの代表取締役就任、というお話もありましたが、いろいろ大変なこともあったのではないですか。
- 岡本
- 当時のヤマウチは「後継者不足」という問題に直面していました。これを解消するために選択したのが、オカモトグループに加わる、という道です。北海道を拠点に東日本でガソリンスタンドやフィットネスクラブを展開していたオカモトと、西日本を基盤に事業を多角化していたヤマウチは親和性がありました。
そして、オカモトの経営者であった父の指示で、私がヤマウチに赴くことになったわけです。当時31歳でしたから、ヤマウチを長く支えてきた役員たちは、若者に何ができるのかと不安も大きかったのではないかと思います。
私はまず、暇があれば現場に行っていました。話をすると「こういうことをやりたいけど、会社が理解してくれない」という不満をストレートにぶつけてくる店長などもいました。それらを吸い上げ、これはこうする、これはいつまで待って、と日報で発信しました。すると「社長が反応してくれた。これはやりたいことができるかもしれない」と、現場との距離が縮まるのを感じました。役員方も「現場はこんなことを考えていたのですね」と好意的に受け止め、徐々に雪解けしていったように思います。 - 四ノ宮
- ヤマウチの経営に携わるようになってから、特に印象に残るのはどんな出来事ですか。

- 岡本
- 2023年の、同じオカモトグループの企業であった(株)ウェルネスフロンティアとの合併です。
ウェルネスフロンティアは「フィットネスで日本一の会社を作る」というビジョンのもと、2013年に東京で立ち上がった会社です。私が社長を兼任し、スポーツスキルとコミュニケーション力に長けた専門性の高い人材が集まった “とがった会社”に育ちました。
そんなウェルネスフロンティアと、香川本社のヤマウチの合併は、コロナ禍がなければ恐らくなかったことでしょう。文化も風土も全然違う2社の合併は、勇気のいる決断でした。ハレーションは覚悟していましたが、コロナ禍での事業再編のためには必要な決断でした。その経営統合に尽力してくれたのが、ウェルネスフロンティアで人事を統括していた佐野と、ヤマウチで財務とM&A投資を統括していた松田です。 - 四ノ宮
- お二人のどういう点を評価されているのですか。
- 岡本
- 佐野の優れている点は、各事業部の統括者と話をして、必要な人員構成をすぐにデザインできるところです。売上500億円にはどういう組織が必要か、1,000億円まで成長させるには組織をどう編成させないといけないか、素早くイメージできるのです。ウェルネスフロンティアにいて、事業の拡大期を経験している、という点も大きいのかもしれません。
その佐野が、ヤマウチにやってきてすぐ、財務の松田の業務を切り分けることを進言しました。当時、松田には財務と経理の両方を任せていたのですが、M&Aファイナンスの“攻め”と、M&A完了後の管理という“守り”を同時に見る体制は健全ではない、スピードが上がらない、というのです。松田も佐野の意見に賛同したため、財務は松田に、経理は人事総務を統括していた佐野に任せる、という体制に切り替えました。それからM&Aのスピードが格段に上がったのです。
松田はもともと地銀で支店長まで務めたキャリアの持ち主です。そのため、どの銀行がどのような業種・手法のM&A案件に強いのか、熟知しています。私が魅力的に感じるような案件も、松田のおメガネに叶わなければ、必ずチェックが入ります。単なるイエスマンではなく、彼なりの基準と信念を持ってM&Aにあたってくれている。だから信頼が置けるのです。
攻めの松田と守りの佐野、という体制が確立したことで、お互いの強みが思う存分発揮できるようになりました。こうした話し合いと改善を重ねるうちに、企業文化の全く異なる両社の歯車が噛み合っていったように思います。 - 佐々木
- かなり動きやすい形になったのですね。

- 岡本
- 今でもハレーションはあります。会議で意見がぶつかることはしょっちゅうです。でも、本音は出し合った方がいい。納得行くまで意見を交えるからこそ、理解し合えるのです。妥協せず、本音をぶつけ合う。その代わり、会議を終えた後に不満は言わない、というのがルールです。
従業員にとっても、文化が違うのだから違和感はあると思います。しかし、お互いの良いところを認め合い、自分にないものを吸収しようという空気も生まれています。東京のメンバーは専門性が高く、細かいところまで突き詰めて勉強する。一方、香川のメンバーはゼネラリストが多く、環境変化に柔軟に対応できる。単に仲良くすることがゴールではなく、互いに良い刺激を与え合い、違いを融合させることで、自分自身の視野や可能性を広げてほしいですね。
サービス業の待遇を上場企業並みに
- 四ノ宮
- 社長は100周年を迎える2033年に売上1,000億円・経常利益100億円という目標を掲げておられます。現在の売上を2倍に拡大させるという意欲的な目標ですが、そのためには何がポイントになるでしょうか。
- 岡本
- 大きくは「DX」、「モチベーション」、「報酬」の3つです。
DXやAI技術を活かして顧客情報の一元管理を実現し、サービスの向上につなげます。ヤマウチIDを一つ持っていれば、幼少期から高齢期まで、あらゆるライフタイムにおいてヤマウチがバリューを提供できる、そんな環境を実現したいと考えています。
モチベーションについては、あらゆる場面で私自身が従業員と対面の接点を持つようにしています。現場のマネジャークラスが出ている会議はもちろんですが、現場にも足を運びます。スーツではなく、ジャージでね。現場と同じ目線で話すのが大事ですから、かっこつけても仕方ありません。社長に就任した当初から、その習慣は今も続けています。現場で感じたことや従業員と話した内容は、日報として毎日発信しています。従業員からは「この間、こんなことを書いていましたね!」「私はこう思うんです」と話しかけられることも増えました。Face to Faceによるモチベーションの向上は大切にしています。 - 佐々木
- 報酬面はいかがですか。
- 岡本
- ヤマウチには職業柄、人の気持ちを理解し、寄り添おうという優しい気持ちを持った従業員が多いように感じます。そういう社員が待遇で肩身の狭い思いをするのを何とかしたい、とずっと考えてきました。まずは年間休日を120日にしました。ボーナスも、利益を最大限還元しています。残業は1分単位で細かくカウントして手当を支給するなど、できることからやっています。しかしながら、現状に満足しているわけではありません。業界TOP企業並みの待遇にすることを目標に、これからも試行錯誤を重ねていきたいと考えています。

- 佐々木
- 四国ならではの働く価値について、岡本社長はどのようにお考えでしょうか。
- 岡本
- ヤマウチは香川を本拠地とする会社です。地方を本拠地としながら、全国に展開する。そういう会社が香川にあることが、地元の人たちの希望になればいいなと思っています。
しかもその事業はフィットネス、介護などのヘルステックに関するものです。この分野で全国に行けるというのが、地域に夢をもたらし、地域貢献になるのではないかと思います。実際、地元経済界の人々と話す機会は多いのですが、ヤマウチに対する期待の大きさを感じます。
また、全国をターゲットにする会社なので、東京には既にオフィスがありますし、次は大阪にもオフィスを構える予定です。四国に根ざしながらも、大都市圏を相手に挑戦できる環境が整っています。「都会で頑張りたい人」、「地方で専門性を発揮したい人」、多様な「やりたい」を実現できる。それがヤマウチで働く価値の一つと言えるのではないでしょうか。
当社が運営する転職支援サイト「リージョナルキャリア」にて、(株)ヤマウチ 代表取締役 岡本将氏の取材記事を掲載しております。併せてご覧ください。
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岡本 将
(株)ヤマウチ 代表取締役
高校卒業後、アメリカの大学に進学。大学院まで進み、組織論やリーダー論を学ぶ。帰国後は父の経営する(株)オカモトに入社。2011年、31歳の若さで、同社が買収した(株)ヤマウチに赴き、代表取締役に就任。2012年にはオカモトグループの(株)ウェルネスフロンティアの代表取締役社長を兼務(ウェルネスフロンティアは2023年、ヤマウチと合併)。2013年、(株)オカモトホールディングスの取締役副社長に就任。香川発の全国展開企業を創造するため、顧客目線の多角的な戦略を展開。M&Aによる事業のコングロマリット化を推進している。

佐々木 一弥
(株)リージェント 代表取締役社長
香川県さぬき市出身。大学卒業後、2007年に株式会社リクルートに入社。求人広告の企画営業職として、香川・愛媛にて、四国に根差した企業の採用活動の支援を中心に、新拠点や新サービスの立ち上げも経験。2010年に販促リサーチを行うベンチャー企業の創業メンバーとして参画。創業の苦労と挫折を経験。2012年、株式会社リージェントの創業メンバーとして入社。2019年より代表取締役社長に就任。子どもと焚き火をするのが至福の時間とのこと。

四ノ宮 こころ
(株)リージェント チーフコンサルタント
香川県出身。大学卒業後、ITベンダーを経て株式会社リクルートへ入社。新卒採用における組織課題抽出、採用計画策定、企業広報及び選考プロセス設計から入社後育成までのコンサルティングに携わる。10年間のキャリアを経て関西への転居を機に、キャリアコンサルタントとして自身の専門性を高めたいと考え、地元四国の貢献に繋がれば、との想いから株式会社リージェントへ入社。現在は同社大阪オフィスにて勤務。