INTERVIEW2024.4.15

世界にまだない新しいものづくりを。「独創力」で最先端技術を生み出す。ー四国化成工業(株)・熊野氏、川合氏ー

INTERVIEW2024.4.15

世界にまだない新しいものづくりを。「独創力」で最先端技術を生み出す。ー四国化成工業(株)・熊野氏、川合氏ー

創業以来、「独創力」をキーワードに独自の技術と製品を世界に発信してきた四国化成工業(株)。2023年にホールディングス体制に移行し、化学品事業を行う四国化成工業(株)と建材事業を展開する四国化成建材(株)を分社化。四国化成グループは、各事業領域における経営判断が早くなり、事業スピードが格段に高まっています。四国化成工業(株)のR&Dセンターでは、研究開発体制の拡充に向けて、新研究棟の検討や神奈川でのサテライトラボの新設、人材の採用など様々な投資を積極的に行っています。今回は、R&Dセンターで働く機能材料開発部長・熊野氏と研究企画室・川合氏に、「四国ならではの働く価値」についてお聞きしました。

世界シェアトップ製品を生み出してきたR&Dセンター。


溝渕
お二人が勤務するR&Dセンターではどのような研究開発を行っていますか。
熊野
当社は、有機化成品、無機化成品、ファインケミカルなどの分野の研究開発を行っています。塩素系の殺菌除菌剤等の有機化成品は徳島工場で開発をしていますが、こちらのR&Dセンターでは、主にはプリント配線板の表面処理薬剤や、自動車や航空機のラジアルタイヤの原料、最先端の電子材料に必要な樹脂改質剤等を開発しています。それから、知財管理を行う研究企画室も同じセンター内にあり、一緒に活動しています。ここ数年は人員が増えて、現在は60名程度の体制になっています。
溝渕
熊野さんのプロフィールをお聞かせください。
熊野
私は香川出身です。大学進学で大阪に出て、高分子化学の物性の研究をしていました。就活では、地元に何か貢献したいとUターン。四国化成を選んだのは、会社説明会に参加した際「自分の裁量で研究を進めていける」と感じたからです。実際に働いてみて、確かに裁量は大きいし、意志を尊重してもらえる環境だな、と実感しています。与えられた研究テーマに加えて、自分がトライしたいテーマにも取り組める環境です。
入社以来、有機合成化学に関する研究テーマを担当していますが、入社当初は自分のスキル不足を感じていました。そこで当時の上司に「より深く有機合成化学を学びたい」と相談し、4年程勤務した後、国内の大学に2年間、社費留学をさせてもらいました。その後、留学先での研究を基に博士号を取得したことで、大きな自信につながりました。
現在は、樹脂改質剤・硬化剤や半導体プロセス材料の開発を行う機能材料開発部の部長として、組織マネジメントやメンバーの育成に関わっています。

ユニークな技術で、第31回芦原科学賞の大賞を受賞。


溝渕
2024年2月に大賞を受賞された芦原科学賞は「産業技術の高度化」などに貢献した香川県の個人や団体に贈られる賞ですね。どのような取り組みが評価されたのですか。
熊野
スマートフォン・半導体機器の高機能化に貢献する新規樹脂硬化剤の開発という実績が認められました。この研究は、私が留学先で学んだ知識を基に新しいことを始めよう、とトライしたテーマの一つだったのですが、それが高い評価を受けることができたので感慨もひとしおです。世界初の新しい材料、ということだけでなく、今までの材料ではできなかった特性を達成することで、スマートフォンの新機能を実現できるようになったので、そういう点を評価いただいたのだと思います。
溝渕
御社には他にも、スマートフォンやパソコンなどの身近な電子機器に不可欠なプリント配線板の防錆剤「タフエース」は世界1位、自動車や航空機などの安全な走行を守るラジアルタイヤの製造に欠かせない不溶性硫黄「ミュークロン」は世界2位のシェアがあり、幅広い分野で貢献をされています。現在はどのような分野に注力されていますか。
熊野
当社が開発をしているのは主に化学品の原材料ですので、扱う分野は多岐に渡りますが、常に“最先端で技術革新が進む分野”での新しい材料開発に拘っています。現在は、これまで樹脂改質剤・硬化剤の分野で培ってきた有機合成技術を活かして、半導体などを中心とした電子材料分野での材料開発に注力しています。例えば、AI、ロボット、自動運転、5Gというように、いずれも市場規模が大きく、今後の成長余地も大きい領域で用いられる最先端で超微細な半導体のプロセス材料の開発に取り組んでいます。

特許情報解析により、開発を戦略的に進める。


溝渕
川合さんのプロフィールもお聞かせください。
川合
私は愛知県の出身です。大阪の大学に進学し、リチウムイオン電池やその材料の研究を行い、卒業後は電子部品メーカーに就職。約10年間、新規事業であるリチウムイオン電池の開発や設計を担当しました。
開発を進めながら、特許の出願にも携わることが多かったせいか、やがて特許の重要性に気づきました。特許で自社の権利を保護するのはもちろんですが、それだけでなく、特許情報の分析により、競合他社が何に取り組んでいるのか、お客様が何を求めているのか、といった自社の開発に有用な情報が得られるのです。
特許情報の解析で、開発がより戦略的に行えるのではないか。そう考えて、知的財産アナリストの資格を取得して、開発部門における知財活動をリードする役割に就きました。
先ほど熊野さんの部署が開発した樹脂硬化剤の話がありましたが、当社が生み出した独自の材料を世の中に広げていくには、攻めと守りの知財が重要です。開発部門の成果を権利としてしっかり守りつつ、知財情報を活用してお客様への一歩先行く提案に繋げていく…そんな意識で業務に励んでいます。


溝渕
どのような経緯で四国化成に転職したのですか。
川合
前職の仕事や待遇に不満はなかったのですが、全国転勤がありまして。自分と家族の将来像を見つめ直した時、全国で転勤を繰り返すより、ゆかりのある土地に根を下ろした方が自分と家族の価値観に合っている、と考えたのです。
そこで、配偶者の実家である香川に移住を決めました。それから香川で仕事探しを始めたのですが、前職と同じ電池設計ができそうな会社は見つかりません。視野を広げ、大学から携わった化学の知識や、開発と知財の経験が活かせる会社はないかと探し、四国化成に転職することになりました。
溝渕
今はどういった仕事をされていますか。
川合
研究企画室で、知財管理を担当しています。知財管理としては特許・意匠・商標の出願や権利化の業務はもちろんありますが、私はより深く開発部門に関わり、戦略的な知財活動を実行したい、と考えて活動しています。
特許情報を解析すると、開発部門がターゲットとしている市場の動向や、競合やお客様の技術動向など、様々な動きがわかります。その情報を開発部門に提供することで、戦略的に研究開発の開発方針やターゲットを定めていくのです。
熊野
特許情報解析によって技術動向を俯瞰的に見ることができれば、情報収集がより効果的に行えます。実際、川合さんが入社して特許情報解析に取り組むようになったことで、情報の精度がかなり高まり、開発スピードも上がりました。
四国化成は現在「Challenge 1000」という長期ビジョンを掲げています。そこで目指すのが「独創力で、"一歩先行く提案"型企業」という姿です。四国化成はこれまでも「独創力」を武器に、様々な提案を行ってきました。今回の長期ビジョンで敢えて「一歩先行く提案」と加えたのは、お客様に言われたことではなく、お客様の一歩先を行く提案をしていこう、という思いがあるからです。そのためにも、特許情報解析という知財部門の動きは、大きな力になると考えています。

「創造」「協奏」「熱意」「誠実」を大事にする開発者たち。


溝渕
四国化成の強みはどのようなところにあると感じていますか。
熊野
一つは、開発者が製品開発プロセスの「最初から最後まで」関わるということです。製品開発プロセスは、具体的には、お客様からのニーズヒアリングに始まり、コンセプト提案、製品開発、量産試作、量産製造、市場拡販…という流れになりますが、当社の開発者は全てのプロセスに営業や製造とも連携しながら関わっていきます。開発者が、お客様と交流することで市場課題や技術動向を肌で感じることができますし、精度の高いコンセプトの考案が可能になります。特に電子部品の新規材料は技術革新のスピードが速く、高い精度で仮説検証をしながら、厳しい要求レベルに応えていかなければいけません。
全てのプロセスを経験することで、様々な知識と経験を得ることができます。個々の開発者が幅広いスキルを身につけていることは、当社開発部隊の大きな強みと考えています。
もう一つは、チームワークです。製品を立ち上げる際、開発だけでなく営業や製造など、役割の異なる部門と密にコミュニケーションを交わしながら検討を進めます。大きな組織ではないからこそ、チームで協業しながら一つの目標に向かう、とてもやりがいを感じる進め方だと考えています。
溝渕
開発者が、最初から最後まで関わるというスタイルは珍しいですね。


熊野
社是として「独創力」を掲げているように、創業者も技術者で、実際にイチから製品を作り上げ、お客様に届けることを実践していました。その姿勢が浸透しているのではないでしょうか。
他社のように分業制にした方が、効率は良いかもしれません。ただ、開発者・技術者としてのやりがいは、最後まで関われる方が大きいと思います。特に、私たちは最先端分野のお客様とお話をし、世界の技術動向を肌で感じるとともに、今まで世界になかった新しい材料を自分の手でデザインして創り出すわけです。苦労は多いですが、最終的にそれが製品となり、お客様に採用され、市場に並ぶ瞬間は、大きなやりがいを感じます。そのためか、好奇心の旺盛な技術者が、当社には多いようです。
川合
開発と知財の距離がとても近いことも四国化成の強みだと思っています。開発が「最初から最後まで」という姿勢で取り組んでいるので、知財管理にも開発を通じていろんな要望がきます。しかし、日頃からコミュニケーションを取り開発の進捗や状況を把握しているので、急な依頼にも慌てずに対応できています。
開発に伴走するのが私たち知財の役割です。知財から提供した情報が開発の役に立ち、結果的にお客様へのいい提案につながって製品化に繋がったとなると、私たちも嬉しく感じます。
溝渕
今、新たなR&Dセンター棟を建て直していますね。
川合
今のセンター棟ができて30年経っています。開発人員の増加や新たなテーマに対応できる施設が必要になり、2027年を目標に新たなR&Dセンター棟を建て直しています。開発者同士、そして知財部門も含めもっとコミュニケーションがとりやすい建物にしていくことも目的の一つです。
そのプロジェクトの一環として、R&Dセンターで働くメンバーの意見をできるだけ反映した建物にしたいと、アンケートをとったんです。その中で、四国化成の開発者の強みや理想像について尋ねました。その回答を集約すると、「創造」「協奏」「熱意」「誠実」という4つのキーワードが浮かび上がってきました。
また、四国化成の社史を振り返ると、歴代の経営者のメッセージにも、この4つのキーワードが共通して見られました。つまり、これらは四国化成で昔から現在までずっと大事にされてきた価値観なのだと思います。「創造」「協奏」「熱意」「誠実」を大事にする人こそ四国化成の最大の特徴であり、未来にもつないでいきたいと思います。
熊野
私は新卒で入社して四国化成しか知らないため、これが当たり前と思ってきました。ここ数年、川合さんのようなキャリア人材が増え、決して当たり前じゃない、四国化成のアイデンティティーなのだと聞き、なるほどと納得しました。


川合
私たちのようなキャリア人材は、他の会社の考え方も経験しています。その考え方を参考にしながら四国化成の進化を促すのが、私たちの役目の一つです。キャリア人材が増えてきたことで、組織内に残っていた古い部分も、どんどん解消されていると思います。ホールディングス化によって、事業スピードが上がったということも、いい方向に作用しているのでしょう。

ローカルで暮らしつつ、世界に独自の技術を発信する。


溝渕
私たちは、四国に多くのUIターン人材を集めるには、「四国ならではの働く価値」を発信することが大事なのではないかと考えています。熊野さんは新卒としてUターン就職を、川合さんは中途としてIターン転職を経験し、香川に来られました。そんなお二人は「四国ならではの働く価値」について、どう感じますか?
熊野
香川は自然災害も少ないし、気候が温暖で暮らしやすい。子どもをのびのび育てるにも、よい環境だと思います。ローカルではありますが、生活インフラは整っている。物価も安い。コンパクトな町でどこに行くにも便利です。
お客様とコンタクトを取るため、県外、時には海外に行ったりすることもありますが、定期的に大都市に行くのも程よい刺激になっています。
川合
私はIターンですが、配偶者の実家だったので、結婚してからはよく香川を訪ねていました。来る度に「いいところだな」と感じ、将来ここで暮らすのもいいな…という思いがありました。実際に一つのところに腰を落ち着けようという話になった時、スムーズに香川を選択できたのは、そういう体験があったからです。
仕事についても、香川に根ざす会社でありながら、世界に輸出されている製品も多い。化成品で言えば50%以上が海外で販売され、高いシェアを持つものもあります。地方だからと言って、やりがいまで小さくなるわけではありません。地方にいながらでも、世界を相手に仕事する、というスケール感を味わうことができると思います。


溝渕
そんな四国化成では、どのような人が活躍できると感じますか。
熊野
誠実で、いろんなことに興味を持てる人でしょうか。私たちも、中途で入ってくる方々がどんなキャリアを経てきたのか、大変興味があります。私たちの知らないやり方をもたらしてくれることもあるでしょう。前職で得た経験を、どんどん発揮してほしいですね。それを取り入れることで、私たちももっと成長できると思います。
川合
知財に関しては、権利関係の管理ばかりで、開発と関わることはなかった…という方も結構いるのではないかと思います。しかし開発と密接に連携した知財業務では、知財業務としても「最初から最後まで」関わりますし、自らの知恵を、開発のために活用することもできるのです。また、私のように開発業務の中で知財に携わってきた方もいると思います。そういった方も、開発のニーズがわかる知財として活躍していただけるのではないでしょうか。
当社の知財は、化学品だけでなく建材も扱います。割合としては化学品が多いですが、幅広い最先端の分野に関わっていきたいという意欲のある方は、四国化成に合っています。
溝渕
今日は、少数精鋭で最先端技術を生み出してきた四国化成工業の研究開発の強み、そして、研究開発に伴走する知財の重要性を改めて実感しました。貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

熊野 岳

四国化成工業(株) 機能材料開発部 部長

1978年生まれ。香川県出身。進学とともに一時香川を離れたものの、就活では地元にUターン。高分子化学分野を研究していたこともあり、四国化成工業(株)(当時)に入社する。ずっと機能材料分野で研究開発を続ける。2008年~2010年、社費で国内大学に留学。博士号を取得。2017年、機能材料開発部門のマネージャーに就任。現在は部長として、後進の指導・育成にあたる。

川合 徹

四国化成工業(株)研究企画室 知財管理

1981年生まれ。愛知県出身。大学を卒業後、大手電子部品メーカーに就職。電池設計・開発などに長く携わる。開発を経験する中で知財管理の重要性に気づき、知財をもっと戦略的に活用したい、とAIPE認定 知的財産アナリスト(特許)の資格を取得する。
30代後半を迎え、全国転勤のある仕事ではなく、一つの場所に腰を落ち着けて暮らすことを望むようになり、家族と相談の上、配偶者の地元である香川にIターンを決意。化学系の知識、開発と知財の経験とスキルを活かせる会社として、四国化成工業(株)を転職先に選んだ。その後、研究企画室に配属。特許情報の解析を行うことで、より戦略的な技術開発をサポートするなど、一般的な「知財管理」の枠を超えた活動を続ける。

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