銀行員から「6人の母」、そして経営者へ。
- 佐々木
- 最初に德武社長のこれまでのキャリアについて教えてください。
- 德武
- もともと地元の銀行で働いていましたが、結婚を機に、27年ほど前に徳武産業に入社しました。女三姉妹だったので、将来的には誰かがこの会社を継がなければ、代々続いてきた歴史が終わってしまうという感覚はどこかに持っていました。ただ、入社した当初は「社長の娘」という自分の立場に対して、常にどこか不安や葛藤がありましたね。周囲の方々が気を遣ってくださるのはありがたいのですが、私は「社長の娘」ということもあり、現場のリアルな不満や課題を、私の前では口に出してもらえないのではないかという不安がありました。
- 德永
- 不安や葛藤を持ちながらのスタートだったのですね。
- 德武
- 父である現会長が社長を務めていた時代は、多くの号令を社長が出すトップダウン型の経営スタイルが事業の拡大期にマッチし、順調な成長をしていました。一方で社員が自身の考えを言えず忖度しているような場面を目にすることもありました。そのため、社員の本音を知ることが私の役目であると考え、何でも話せる関係性を築いていくことを重要視し、意識的にフラットなコミュニケーションを心がけました。仕事の話はもちろんですが、プライベートな悩みも含めて、一人の人間として信頼してもらえるよう対話を積み重ねました。
- 佐々木
- それが今に繋がる経営スタイルとなっていったのですね。
- 德武
- はい、その姿勢は社長になった今でも変わらず大切にしています。年に2回、賞与のタイミングで全社員と個別の面談を行っていますが、できる限り相手の目線に立ち「聴く」ことに徹しています。社員が「この人なら本音を言っても大丈夫だ」と感じてくれるまで、時間をかけて丁寧に向き合ってきました。今では、耳の痛い話であっても、会社を良くするためのヒントとして切実に訴えてくれるようになり、それが経営判断の大きな支えになっています。
子育てで培われるビジネススキル。
- 德永
- 德武社長は6人の子どもをもつ母としてのキャリアもお持ちですね。
- 德武
- 育児の経験は、私にとって実戦的なビジネススキルを磨く期間でもあったと捉えています。まず鍛えられたのは、極限まで高められた「生産性と切り替え能力」です。私の場合、会社の玄関を出る瞬間に母親へと100%切り替わります。家には子どもの夕食や迎えといった動かせない期限がある。その中でいかに効率よく最大の結果を出すかという時間管理能力は、仕事だけに没頭していたら得られなかったものです。また、仕事でどれほど大変なことがあっても、家に帰れば子どもたちとの時間が待っている。この強制的な切り替えが、かえってメンタルの安定に繋がっていた部分もあります。
- 佐々木
- 子育ての経験が組織マネジメントにも通じている感覚ですね。
- 德武
- まさにそうです。同じ親から生まれた6人でも、性格も強みも驚くほどバラバラです。それぞれの子をよく観察し、どう接すればその子が前向きになれるかを考え抜く。これは会社の「適材適所」の考え方そのものです。本人がやりたいことと、客観的に見て向いていることが違う場合、その人が最も輝ける場所を見つける力が必要になります。子どもたちと向き合う中で磨かれたこの観察力は、社員一人ひとりの強みを引き出すマネジメントに直結しています。私は社員に「自分らしさを大切にしなさい」とよく言いますが、それは一人ひとりの良いところを活かせる会社こそが、より良い価値を顧客に提供できると信じているからです。
- 德永
- 産休や育休を「キャリアの停滞」と不安に感じる方も多いですが、そうではないということですね。
- 德武
- 私は産休・育休に入る社員に「自信を持って帰ってきなさい」と言っています。家庭で異なる役割をこなし、人間としての深みを増してくるのですから、それは付加価値をつけて帰ってくるようなものです。育児も家事も仕事も、すべてが人生を豊かにするキャリアだと思います。
制度は「心苦しさ」を取り除くためにある。
- 佐々木
- 社長就任後、働き方改革の面でも様々な取り組みをされていますね。
- 德武
- 原動力となったのは、自分自身が経験してきた「心苦しさを解消したい」という想いでした。以前、会社では朝7時半から会議を行っていましたが、保育園に預けられない時間帯のため、私は幼い子どもを家で一人テレビの前に置いて出勤していた時期がありました。会議中も「何かアクシデントはないか」と火元や事故の心配をして、心ここにあらずの状態で。そんな心苦しさを、今の社員にさせてはいけない。誰かの犠牲の上に成り立つ成長は長続きしないと確信したのです。
- 德永
- 制度づくりはどのように進めましたか。
- 德武
- 「準備が整ってから」と言っていたら、いつまでも変わりません。まずは「やる」と決め、それからどう運用するかを社員と一緒に考えました。例えば、完全週休2日にするタイミングでは、生産性をどう上げるか、業務をどう効率化するか。実現するための課題を掲げ、みんなで知恵を出して取り組むことで変革を実現してきました。経営者の最大の仕事は、社員が安心して働ける環境をデザインすることだと思っています。
- 佐々木
- 制度を設計する際に大事にしていることはありますか。
- 德武
- 一人ひとりの声に耳を傾けながらも個に寄りすぎるのではなく、全体を見渡して可能な限り全員が納得感を持って働ける仕組みを、機動的に作ることを大事にしています。また、他社の制度をそのまま真似るということではなく、この地域で、私たちの規模でできる最善を追求する姿勢を持ち、顔の見える社員一人ひとりの生活を想い、その家族まで含めて幸せになれるような場所でありたい。そうした「中(社員)を向く経営」こそが、結果としてお客さまへの感動の提供に繋がると信じています。
満足と感動で描く「幸せの循環」。
- 德永
- 德武社長は、地方で働くことの価値をどのように捉えていますか。
- 德武
- 地方には、都会にはない「顔の見える温かさ」があると思います。地域全体で子どもを見守り、お互い様の精神で助け合う。徳武産業も、社員とその家族の幸せを起点とした「幸せの循環」を目指しています。都会の成功モデルを追いかけるのではなく、目の前にいる社員がいかに満足して働けるか。みんなの働き方が会社を成長させ、それがお客さまの満足を増やす。このシンプルな循環を、この地で大切にしていきたいと考えています。
- 佐々木
- 「幸せの循環」を生むために大切にしていることはありますか。
- 德武
- 本人が気づいていない能力を客観的に見つけてあげて、その人が輝ける場所、つまり「適材適所」を探すことにこだわっています。自分らしさを活かせる場所で働くことが、結果として組織全体の活力を生むと考えています。
- 德永
- 他にも、顧客ニーズに徹底的に寄り添う姿勢も幸せの循環を生んでいますね。
- 德武
- 我々は顧客自身もまだ気が付いていないような「声なき声」に耳を傾けていくことに注力しています。大企業がやらない細かな困りごとに徹底的に寄り添い、顧客に心から喜んでもらうことこそが徳武産業の価値です。そのこだわりこそが、他社には真似できない差別化要因になっています。
あなたの経験に無駄なものはない。
- 佐々木
- あゆみシューズ発売より30周年を迎え、次のステージとしてどのようなビジョンを描いていますか。
- 德武
- 大きな柱の一つが「脱介護」です。今の高齢者の方々は昔に比べると意識が非常に若く、「シルバー」や「ケア」、「介護」といった名の付く商品を提案されることに、抵抗感や寂しさを感じている方が多くなっています。機能性は追求しつつも、見た目はアクティブで、「これを履いて出かけたい」と思えるような、心理的なハードルを取り除いた商品開発を加速させます。また、メイド・イン・ジャパンの技術を継承するため、能登上布や保多織といった地域の伝統織物を活用した新たな商品展開も進めています。さらに市場としては、国内だけではなく、アジアを中心とした世界市場への展開も見据え準備をしているところです。今後も30年かけて築いた「あゆみ」の軸はぶらさず、新しい価値を創り出していくつもりです。
- 德永
- 最後に、地方でのキャリア形成や仕事と家庭の両立で不安を感じている方々へのメッセージをお願いします。
- 德武
- キャリアに悩むシーンは誰にでもあることだと思いますが、そんな時には「あなたの経験に無駄なものは何一つない」と考えてもらいたいです。育児の葛藤も、孤独を感じた日々さえも、すべてはあなたを形作る大切なキャリアの一部になります。完璧を目指して自分を追い込む必要はありません。悩んでしまう時は、一人で抱え込まず、周囲に頼る勇気を持ってください。時には人の力を借りることで、自分一人では到達できない大きな目標に挑戦できるようになります。
- 德永
- 地方だからといって何かを諦めるのではなく、この環境を活かして理想の働き方をデザインしていける。德武社長のお話は、多くの人にとって勇気を与えるものだと感じました。
- 德武
- 私たちは、年齢や性別に関わらず、一人ひとりの強みを見出し、輝ける居場所を共に見つけていきたいと考えています。業界の品質基準を自分たちで確立していくような、トップメーカーとしての挑戦も本格的に始まっています。このビジョンに共鳴し、次の30年を共に創ってくれる志ある方との出会いを、心から楽しみにしています。
- 佐々木
- 本日はありがとうございました。人生のあらゆる経験を力に変え、社内外の一人ひとりに寄り添い、耳を傾ける経営に感銘を受けました。地方でのキャリアを模索し、自分らしい「あゆみ」を始めようとする方々の参考になればと思います。
当社が運営する転職支援サイト「リージョナルキャリア」にて、徳武産業(株)代表取締役社長 德武聖子氏の取材記事を掲載しております。併せてご覧ください。
德武 聖子
徳武産業(株) 代表取締役社長
1972年、香川県生まれ。徳島文理大学短期大学部を卒業後、香川銀行を経て、1997年にケアシューズ「あゆみシューズ」を製造する家業の徳武産業へ入社。同社は「左右サイズ違い・片方販売」など利用者に寄り添うサービスでケアシューズ業界トップシェアを誇る。2019年に代表取締役社長に就任。「お客様の声なき声に耳を傾ける」理念を継承しつつ、人づくりを軸とした組織改革を推進。私生活では6人の子どもを持つ母親でもあり、温かな思いやりの心と革新を融合させた経営で会社を牽引している。
佐々木 一弥
(株)リージェント 代表取締役社長
香川県さぬき市出身。大学卒業後、2007年に株式会社リクルートに入社。求人広告の企画営業職として、香川・愛媛にて、四国に根差した企業の採用活動の支援を中心に、新拠点や新サービスの立ち上げも経験。2010年に販促リサーチを行うベンチャー企業の創業メンバーとして参画。創業の苦労と挫折を経験。2012年、株式会社リージェントの創業メンバーとして入社。2019年より代表取締役社長に就任。子どもと焚き火をするのが至福の時間とのこと。
德永 文平
(株)リージェント コンサルタント
香川県高松市出身。大学卒業後、関西の大手鉄道会社に就職。経理部門に配属されたのちに、新規事業セクションに異動となり、自治体と連携したまちづくり事業や、スマート農業事業に従事。幅広い業務の中で、採用担当やチームメンバーの1on1面談を通じて「採用が組織を変えた瞬間」の面白さにはまっていく。「四国ならではの働く価値を創造する」というリージェントのメッセージに、自身も抱えていた悩みの答えを見出し、転職を決意。2024年、株式会社リージェントに入社。現在は自分と同じようにUIターンを検討している方の背中を押すべく、転職コンサルティングに従事している。








