人生のターニングポイントとなった簿記との出会い
- 吉津
- まずは天羽さんのこれまでの歩みについて教えてください。
- 天羽
- 出身である徳島で高校まで過ごしました。その後、「一度、外の世界を見てみたい」という思いから大阪に出て、1年ほどで徳島に戻ってきました。その際、「自分は何をしたいのか」を改めて真剣に考えました。ちょうどその時、知人から「簿記に興味はないか」と声をかけられました。それまで簿記について考えたこともなかったのですが、簿記の勉強を始めてみることにしました。それが、会計や経理の道に進むきっかけとなりました。

- 吉津
- 簿記の勉強はどのように進めたのですか。
- 天羽
- まずは本屋で簿記3級のテキストを1冊買い、独学で7回ほど繰り返し勉強しました。そのうちに「簿記って面白いぞ」と思うようになったのです。簿記は業種を問わず会社の数字全般に関わる知識です。これを身につければ、どんな会社でも通用する武器になるのではないかとワクワクしたのを覚えています。日商簿記3級に合格した後は2級にも挑戦し、その過程で「税理士試験」というものがあることを知りました。私が税理士を目指すためには、日商簿記1級に合格しないと受験資格が得られません。そのため、日商簿記1級を目指してみようと、挑戦することを決意しました。ただ、学生時代にあまり勉強をしてこなかったこともあり、独学で日商簿記1級に挑むことは無謀でした(笑)。しかし、どうしても諦めたくなくて、専門学校にも通い、ようやく合格することができたのです。専門学校に通って必死に勉強した経験は、自分の人生にとって本当に大きな財産となりました。
- 吉津
- その後のキャリアはどのように進まれたのですか。
- 天羽
- 資格取得後、税理士試験の科目合格を得るために引き続き勉強を続けていたのですが、そのタイミングでひとつの出会いがありました。システムコンサルティング会社の社長との出会いです。その方は中小企業向けの業務ソフトの導入支援などもされていたのですが、私が会計や税法を勉強していること知り、「私の仕事を手伝ってくれないか」と誘ってくださったのです。こうして私はその方の会社で働き始めることになりました。
当時は、ちょうど世の中にWindows95が登場してパソコンが急速に普及し始めた頃で、ハードでもソフトでも、企業に導入するだけで利益が出る時代でした。しかし、社長は「いずれ誰もがパソコンを使うようになれば、物を売るだけでは立ち行かなくなる。大事なのはその先。ハードやソフトを“どう使うか”だ」と考えていました。 - 吉津
- かなり先見の明がありますね。
- 天羽
- ただ、当時はまだハードやソフトを売るだけでビジネスが成立していたので、我々が提案する支援、いまで言うDX推進のようなサービスに対してお金を払ってくれる企業はほとんどありませんでした。時代が早すぎて、なかなか芽が出なかったのです。それでも、私はそこでお客さまにソフトの使い方や業務改善の方法を教えるインストラクターの業務をみっちりと学びました。数字的な成果こそ出ませんでしたが、ユーザーサポートの大切さやIT活用の理想像を学べた貴重な経験になったと思っています。
社内ベンチャーを立ち上げ、事業化・分社化を推進
- 吉津
- その後、ナイスシステムの親会社であるナイスリフォームへ転職されます。それは、どのような経緯だったのでしょうか。
- 天羽
- 仕事上のご縁で、ナイスリフォームの管理部門の方から声をかけていただいたことがきっかけでした。当時、ナイスリフォームは創業から10年余りが経過していたタイミングで、事業成長に伴い管理部門の強化が課題となっていました。そうした状況で経理部門を任せていただくことになったのです。
入社してしばらくは経理業務に専念していましたが、外部で支援してきた業務効率化を自ら担当業務として実践することで、前職で行っていた取り組みが正しかったこと、そしてそれこそが本質的に求められていることであると確信するに至りました。
その中で、「このまま経理だけを続けるのではなく、以前から携わってきた業務ソフトの導入支援を、会社の強みとしてもう一度育てることは出来ないか」という想いが少しずつ芽生えてきたのです。
そして、私は社長にシステム事業の立ち上げを提案することを決意しました。 - 吉津
- なるほど。まさに社内ベンチャー的な始まりだったのですね。
- 天羽
- そうですね。最初は「少しでも会社の利益になれば」といった気持ちで始めました。初めて発注いただいた案件は、公的機関から依頼された求職者向けのパソコン研修で、会計ソフトやExcel講座の講師を担当しました。その後も細々と依頼は入りましたが、事業を大きく拡大して独立させる予定もなく、5年ほどは私一人で担当していました。
その後、ようやく一人、二人と仲間が増えましたが、今度は私が経理部門に加え社内の複数の部門長を兼務することになり、その後もしばらくシステム事業に本腰を入れられない状況が続きました。 - 吉津
- 本格的にシステム事業に注力できるようになったのは、いつ頃からだったのでしょうか。

- 天羽
- 2017年からが本格的な事業スタートだったと思っています。初めて徳島・香川以外のエリアに進出したのですが、全く地盤のない土地で、ゼロから拠点の立ち上げに挑戦しました。なかなか期待していた成果が上がらず、悔しい思いをしたものです。しかし、その間において事業活動での試行錯誤があったからこそ、私自身が「経営者」としての視座を持てるようになりましたし、少しずつ成果が出始める過程において、「ようやくシステム事業を本格的に事業化できた」という実感も持てるようになりました。
- 吉津
- 苦しい経験があったからこそ、事業化の実感が得られたのですね。
- 天羽
- その通りです。その後、広島・岡山へとサービス提供地域を広げていきました。2021年には、ナイスリフォームからシステム事業を分社化し、ナイスシステムを設立することができました。社内ベンチャーとしてスタートした事業が、10年以上の年月を経て、ようやく一つの会社として独り立ちを果たすこととなりました。
人材育成と組織体制の強化により、事業領域の拡大を目指す
- 吉津
- ナイスシステムは中小企業のバックオフィス業務をシステム面から支援されていますが、具体的にはどのようなサービスを提供しているのでしょうか。
- 天羽
- 私たちは主に中小企業向けに、会計ソフトや給与計算ソフト、販売管理ソフトなどの業務パッケージの導入支援を行っています。単にソフトを販売するのではなく、お客さまの業務内容や課題を丁寧にヒアリングした上で、最適なソフトを選定し、導入から設定、データ移行、運用支援まで一貫してサポートしています。また、導入後のアフターフォローにも迅速に対応し、お客さまがソフトをしっかりと使いこなせるよう、責任を持って支援しています。
こうした丁寧かつ迅速なサービスを継続してきたことで、「とても丁寧に付き合ってくれる」と高く評価いただくことが多く、この1〜2年で私たちの事業は大きな注目を集めるようになりました。取引のある大手ソフトメーカーの方からは、「全国的にも御社のようにサポートに特化し事業拡大している会社は珍しい」と名前を挙げていただくこともあり、大きな励みになっています。そうした評価に慢心せず、これからもより一層サービスの質を高めていきたいですね。 - 吉津
- 今後の事業展開についてもお聞かせいただけますか。
- 天羽
- 将来的には、ソフトウェアの操作や運用支援をするだけでなく、より上流のコンサルティング領域に踏み込んでいきたいと思っています。お客さまの経営や業務プロセス全体を見渡して課題解決策を提案できる「業務コンサルタント」的な役割を目指しています。私の経験上、企業が成長できるかどうかの分かれ目は管理部門の在り方にも重要な要素があると感じます。売上拡大に注力するあまりバックオフィスをおろそかにする企業も多いですが、それではいずれ経営マネジメントの限界が来てしまう。だからこそ私たちは縁の下で経営管理を支え、お客さまの成長を後押ししていきたいと考えています。
こうしたビジョンを実現するためには、社員一人ひとりが経営視点で提案できる力を身につけていく必要があります。そのため、人材育成とメンバー各自が自走できる体制の構築が、今後の大きなテーマとなります。ミッションやビジョン、バリューをメンバー全員にしっかりと共有し、お客さまに継続的に価値を提供できるチームに成長していきたいと考えています。 - 吉津
- 人材育成に関しては、具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか。
- 天羽
- 私たちの仕事は属人化しやすいため、個人のスキルを組織の力へと転換し、新たに加わったメンバーが着実に成長できる「成功の再現性」を高める仕組みづくりを進めています。今の若い方々は、私が考えているよりもずっと短いスパンでキャリアを描き、自己成長を求めているかと思います。そのため、入社3年で独り立ちし、後輩を指導できるレベルまで成長できるように、座学やOJTも含めて教育体制を整えています。また、日商簿記やITパスポートなど、資格取得に必要な費用は会社が負担し、合格すればその成果をきちんと評価に反映しています。自己成長に向けての投資は惜しみませんので、どんどん挑戦して欲しいと思っています。
なお、キャリアパスについても多様化させています。管理職を目指すマネジメントコースだけでなく、現場のプロとして技術を極めるスペシャリストコースも用意しました。誰もが管理職になりたいわけではありませんからね。高い専門性を持つコンサルタントとして活躍する道も、会社の重要な成長戦略だと考えています。 - 吉津
- 人材については、天羽さんが以前「優秀な人とは、価値を対価に変えられる人だ」とおっしゃっていたのが印象に残っています。
- 天羽
- そんなことを申し上げましたでしょうか(笑)。でも確かに、単に知識や経験があるというだけでは不十分で、それをお客さまに「ぜひお金を払ってでもお願いしたい」と思っていただける形にできてこそ、本物のプロだと思っています。ですから社員にも、身につけたスキルをどう価値提供につなげるかを常に意識してほしいと伝えています。
幸いお客さまからのニーズは増えていますので、チャレンジの機会は豊富にあります。早い段階で小さくても成功体験を積み、「自分の成長が会社の役に立っている」と実感できるような環境をしっかりとつくっていきたいですね。
地方だからこそ得られた組織力と事業優位性
- 吉津
- 天羽さんは四国という地域で事業をする魅力についてはどう感じていますか。
- 天羽
- 四国は大企業の本社や工場が少なく、市場規模も決して大きくはありません。しかし、最近はクラウドやオンライン会議システムの普及で、四国に居ながらにして四国外の仕事に携われるようになりました。実際、コロナ禍の時期には当社の売上の15〜20%程度が四国外のお客さまの案件となっていました。
今は都会に行かなくても十分にチャレンジできる環境が整いつつあります。むしろ四国で暮らしながら全国の仕事に関われるなんて、とても魅力的なことだと思います。四国は自然も多く時間もゆったり流れていて生活しやすい場所ですし、生活コストも低い。特にITを活用できる仕事であれば、四国に拠点を置くメリットは大きいと感じています。

- 吉津
- 地方ならではの強みもあるということですね。
- 天羽
- そうですね。私たちが手掛けるサポートサービスの料金は、エリア差はほとんどありません。だからこそ、顧客の期待を超えるサービスが提供できれば、ビジネスとして、継続的に成長していけると考えています。
また、人口減少が進む四国・徳島の厳しい環境で鍛えられたおかげで、組織力は着実に高まったと感じています。広島・岡山に展開した際も、事業が想定よりもスムーズに進みました。四国エリアで積み上げてきた努力が、他県では圧倒的な競争力になったのです。「あのときの苦労が、今これだけの力になっている」とはっきりわかります。それは、とても自信になりますし、諦めず努力した甲斐があったと思える瞬間でもあります。 - 吉津
- 苦労の多い地域で鍛えられた経験が、他の地域では競争力になる。それはまさに「地方発」の強さと言えますね。
- 天羽
- 四国・徳島から新規事業をスタートしたからこそ、私たちは「地方」の中小企業が抱える課題を本質的に理解し、伴走できていると考えています。地方の中小企業は、人手や資金といった経営資源が限られている場合が多くあります。だからこそ、私たちがITや業務プロセスの側面からバックオフィスを支援することで、お客さまが貴重な経営資源をできる限り本業に集中させられるようにしたいと考えています。それこそが、お客さまの成長を陰で支える、私たちの使命であり、提供価値だと認識しています。一見、地味な裏方に映るかもしれませんが、中小企業にとって管理部門を強化することは極めて重要です。「ナイスシステムに任せて良かった」と言っていただける存在を目指し、今後も着実に努力を重ねていきたいと考えています。
- 吉津
- 地方の中小企業の成長を支える存在として、御社の今後のさらなる発展を楽しみにしています。本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
当社が運営する転職支援サイト「リージョナルキャリア」にて、(株)ナイスシステム 代表取締役 天羽秀樹氏の取材記事を掲載しております。併せてご覧ください。

天羽 秀樹
(株)ナイスシステム 代表取締役
徳島県出身。システムコンサルティング会社でのキャリアを経て、2005年に株式会社ナイスリフォームへ入社。経理財務分野から事業成長を支え、管理部門や工事部門の責任者を歴任。2008年、これまでに培ったスキルやノウハウを活かし、会計システムなどの導入・運用サポートを中心とする新規事業を立ち上げる。2017年以降、徳島県以外への商圏拡大と営業所展開を本格的に推進。2021年に新規事業を分社化し、株式会社ナイスシステムの代表取締役に就任。現在は勤怠管理システム・会計システムなどのバックオフィス業務システムの導入運用支援を主軸に、顧客企業の業務効率化やバックオフィス支援に注力。四国を拠点に岡山県・広島県へと商圏を広げ、ビジネスを展開している。

吉津 雅之
(株)リージェント 執行役員
広島県福山市出身。大学卒業後、株式会社リクルートに入社。住宅領域の広告事業に従事し、2013 年より営業グループマネジャーを歴任。2018年に8年半の単身赴任生活に区切りを付け、家族が暮らす四国へIターン転職を決意。株式会社リージェントでは、四国地域の活性化に向けて、マネジメント経験を活かした候補者・企業へのコンサルティングを行っている。