徳島2026.2.12

世界に誇る「技術」と「実証」のDNAで、徳島からグローバルなイノベーションを。ー大塚テクノ(株)・日下健一氏ー

徳島2026.2.12

世界に誇る「技術」と「実証」のDNAで、徳島からグローバルなイノベーションを。ー大塚テクノ(株)・日下健一氏ー

徳島県出身。薬学の道を志し、株式会社大塚製薬工場に入社。当初は専門性を活かした臨床開発に従事していたものの、30代でキャリアは大きく転換。医療機関と連携した一大プロジェクトの主導、プロダクトマーケティング、そして営業支店長としての組織マネジメント。大塚テクノ株式会社の代表取締役社長・日下健一氏の歩みは、薬学部出身者の枠には到底収まりません。「キャリアは計画するものではなく、目の前の壁を乗り越えた先に拓けるもの」。そう語る日下社長の原点と、世界へ挑む大塚テクノの未来図、そして徳島で働くことの価値について、お聞きしました。

医療の「常識」を変えた栄養サポートチームプロジェクト。


吉津
日下社長は薬学系の大学をご卒業されています。やはり学生時代から、製薬業界のエキスパートを目指されていたのでしょうか。
日下
そうですね。ただ、きっかけは非常に個人的なものでした。私は徳島県出身で、小・中学生の頃はサッカーに明け暮れていたのですが、当時のコーチや監督が大塚グループの社員の方々だったのです。情熱的で、人間味あふれる彼らに接するうち、自然と大塚グループや製薬業界に憧れを抱くようになりました。 就職活動では、当初は県外での就職も考えましたが、ご縁があって大塚製薬工場に入社しました。最初の配属は大阪の開発部。地元・徳島を離れ、新しい環境でキャリアをスタートできたことは、当時の私にとって非常に刺激的でありがたいことでした。
吉津
入社後はどのようなキャリアを歩まれたのですか。
日下
20代は、輸液製剤の臨床開発を担当し、新薬開発のプロセスを現場で学びました。転機が訪れたのは30代、応用開発部に異動した時です。ここで、医療機関と協働し、「栄養サポートチーム(NST)※1」を日本に根付かせる学会共催プロジェクトを立ち上げることになったのです。

当時の日本の医療現場では、まだ「患者の栄養管理」に対する意識が十分とは言えませんでした。欧米では、抗がん剤治療などを始める前に、まず患者さんの栄養状態をアセスメント(評価)し、体力を底上げしてから治療に入ります。しかし日本では、水分と電解質だけの輸液で管理されることが多く、十分なカロリーやアミノ酸、脂質を投与して治療効果を高めようとする病院は、国内に数えるほどしかなかったのです。

※1 栄養サポートチーム(NST): 医師、看護師、薬剤師、管理栄養士など多職種が連携し、患者に最適な栄養療法を提供する医療チーム。治療効果の向上、合併症予防、QOL向上を目的とする。


加地
今でこそNSTは一般的ですが、当時はまさに黎明期だったわけですね。
日下
その通りです。この「新しい医療の常識」を、国内の300、400の病院へと広げていくことができれば、日本全体の医療の質、治療効果の底上げが期待できます。そのためには、医師や看護師だけでなく、薬剤師、管理栄養士、検査技師、理学療法士などが職種の壁を越えてチームで動く体制が必要です。 会社からこのプロジェクト主導の機会を任されたのは、本当に幸運でした。約4年半、全国を駆け回りましたが、各地の病院でNSTが発足し、栄養アセスメントが当たり前のものとして定着していく様を目の当たりにした時の達成感は、今でも忘れられません。
加地
単なる「モノ売り」ではなく、医療の仕組みそのものを変える活動ですね。
日下
ええ。それまで病院にとって、我々製薬会社はあくまで「売り手」であり、外部の人間でした。しかしNSTプロジェクトでは、同じゴール(患者さんの回復)を目指す「パートナー」として受け入れてもらえました。 「どうすれば院内にNSTを定着させられるか」と相談を受け、共に知恵を絞り、時には壁にぶつかりながら仕組みを作っていく。それはコンサルティングに近い活動だったと思います。単なる「売り手と買い手」という垣根を越え、医療従事者の方々と同志として仕事ができた経験は、私にとって大きな財産です。
吉津
新しい概念を普及させるには、大変な苦労もあったのではないでしょうか。
日下
プロジェクトの立ち上げ時期が一番苦しかったですね。「意義は素晴らしいが、企業の利益になるのか」「他社製品の販売を助けるだけではないか」といった声も、社内の一部にはありました。 しかし、当時の上司が「社内の逆風など気にするな。正しいことなら堂々とやれ。」と背中を押し続けてくれました。そして、社外では海外の先進事例を知るドクターたちが、「日本にもNSTが必要だ」と旗振り役を買って出てくれました。社内外の先見性あるリーダーたちに支えられ、実績が出るにつれて、社内の空気もガラリと変わっていきました。この時築いた人脈は、今の私にとってもかけがえのない宝物です。

「大塚グループにしかできないこと」を体感したキャリア。


吉津
プロジェクトが軌道に乗った後は、どのような道へ進まれたのですか。


日下
「NSTという概念を広めたのだから、次はそこで使われる製品づくりに責任を持て」ということで、栄養剤のプロダクトマーケティングマネージャー(PMM)を任されました。 PMMとは、製品の研究・開発から、生産、品質管理、販売、そして納品に至るまで、その製品の全生涯に責任を持つ立場です。「製品の全体像を見る経験は、将来必ず役に立つ」という上司の親心だったと思います。

ここでは、市場戦略を練るマーケティングの面白さを知ると同時に、メーカーとしての重い責任も痛感しました。ある時、子会社で生産した製品に品質課題が見つかり、対応に追われたことがあります。一つのトラブルが、子会社の存亡に関わる危機に直結する。PMMの判断一つが企業の命運を左右するのだと、身をもって学びました。
加地
開発、マーケティング、危機管理と、非常に濃厚な30代を過ごされたのですね。その後、営業の現場にも出られたと伺いました。
日下
40代に入ってからは、東京支店の営業マネージャー、そして静岡支店の支店長を経験しました。ここで初めて「組織マネジメント」の神髄に触れました。静岡支店は非常にチームワークが良く、まるでファミリーのような一体感があり、組織で成果を出す喜びを知りました。
吉津
研究・開発畑出身の方が、営業のトップとして赴任することに不安はありませんでしたか。
日下
不安がなかったと言えば嘘になりますが、私は若い頃から「未経験の部署」への異動を繰り返してきましたから、耐性はついていたかもしれません(笑)。 専門外の部署にリーダーとして行く場合、私にはそこで語れる「過去の実績」はありません。だからこそ、謙虚にならざるを得ない。その道のプロである部下たちの声に耳を傾け、教えを請い、良い意見をどんどん取り入れる。わからないことは聞けばいい。「聞く力」こそがマネジメントの要諦だと気づけたのは、異動のおかげです。

その後、本社に戻りPMMの統括、そして受託事業本部を経て、2024年に大塚テクノの社長に就任しました。大塚テクノは医療用プラスチックや精密デバイスのメーカーですから、私にとってはまた「新参者」です。しかし、これまでの経験がすべて活きていると実感しています。
加地
開発、PMM、営業、そして経営。薬学部出身としては極めて稀有なキャリアステップに見えますが、お話を伺うと、すべてが必然のようにも思えます。このように若手に多様な経験をさせるのは、大塚グループの文化なのでしょうか。


日下
私の時代には、今のジョブ・ローテーションのような制度があったわけではありません。ただ、根底にある「風土」はずっと変わっていないと思います。 大塚グループには「流汗悟道(自らが汗を流し実践して感じることの中に本質がある)」「実証(物事を成し遂げることで真理に達する)」「創造性(真似をせず、大塚にしかできないことを追求する)」という3つの理念があります。 やってみなければ分からない。やり遂げた先にしか見えない景色がある。このDNAが、大塚グループの強さの源泉です。私自身、自分の専門領域とは異なる仕事に飛び込み、汗をかくことで、視野を広げてもらいました。だからこそ、今の自分があるのだと感謝しています。
吉津
そのような挑戦機会が多くある企業風土は魅力的ですね。
日下
まさに、大塚テクノにおいても、そのための制度改革に着手しています。若手のうちに複数の部署を経験できるジョブ・ローテーション制度を整え、適性を見極めながらキャリア形成ができるようにしたい。 もちろんスペシャリストも重要ですが、専門性が固まる前の若手のうちに、少なくとも2つ以上の異なる領域を経験することは、物事を多面的に見る視座を養う上で非常に有効だと考えています。

「マーケットイン」に「プロダクトアウト」を融合。 技術を武器に、新たな市場を切り拓く。


吉津
今後の大塚テクノをどう導いていこうとお考えですか。
日下
大きく2つのテーマを掲げています。「イノベーションの促進」と「海外展開の拡大」です。 まずイノベーションについて。当社は長年、お客さま(主に医療・精密機器メーカー)の要望に応じて製品を作る「受託製造」で成長してきました。確かな技術でお客さまのニーズに応える「マーケットイン」の姿勢は、今後も当社の基盤です。 しかし、それだけでは生き残れない時代が来ています。技術の進化は速く、お客さまから言われてから準備していたのでは手遅れになることもあります。 これからは、「当社にはこんな独自技術があります」「この技術を使えば、御社の課題をこう解決できます」と、我々から提案していく「プロダクトアウト」の姿勢も不可欠です。
加地
受託メーカーからの脱却、とも言える大きな挑戦ですね。社員の方々の反応はいかがですか。
日下
社員と少人数で対話する「社長と語る会」を定期的に行っているのですが、頼もしい反応が増えてきました。「イノベーションとはこういうことではないか」という具体的な意見が出てくるようになったのです。 イノベーションとは、必ずしも「ゼロから全く新しい発明をすること」だけではありません。既存の技術を組み合わせたり、用途を変えたりすることで、新しい価値を生むことも立派なイノベーションです。
吉津
具体的に、どのような技術や市場に可能性を感じておられますか。
日下
当社には、大塚グループでの医療製品づくりを通じて培った「高度な樹脂成形技術」と「厳格な衛生管理ノウハウ」があります。これが我々のコア・コンピタンスです。 この強みは、医療分野だけでなく、精密機器やその他の産業分野にも転用可能です。例えば、今まで金属で作っていた部品を、当社のスーパーエンジニアリングプラスチック加工技術で樹脂化できれば、軽量化やコストダウン、衛生面の向上といった価値を提供できます。 リスクを恐れず、「先発品(オリジナル製品)」の開発にも挑戦したい。後発品はリスクが低いですが、市場の主導権は握れません。大塚テクノだからこそ作れる「オンリーワン」を世に出し、技術者たちが誇りを持てる会社にしたいですね。


加地
もう一つの柱である「海外展開」についてはいかがでしょうか。
日下
現在、中国とベトナムに生産拠点を展開していますが、まだまだポテンシャルがあります。 さらに大きな動きとして、親会社である大塚製薬工場が米国ICU Medical社の事業部門との合弁会社を子会社化するなど、グループ全体で北米市場への攻勢を強めています。当社としても、このグローバルな潮流に乗り、現地の規制に対応した生産体制の構築を急ピッチで進めています。 今まで未踏だった国や地域に出ていくことは大きなチャレンジですが、世界中の人々の健康に貢献できるチャンスでもあります。

「徳島から世界へ」 グローバルな仕事と、豊かな暮らしの両立を。


吉津
今後、どのような方と一緒に働きたいとお考えですか。
日下
スキルや経験も大切ですが、何よりも「自分の仕事が社会の役に立っている」ということに喜びを感じられる人ですね。 イノベーションを起こす開発職であれ、着実に製品を送り出す製造現場であれ、その先には必ず患者さんやエンドユーザーがいます。「大塚テクノの製品が、誰かの命や暮らしを支えている」という誇りを共有できる方と、一緒に働きたいです。
加地
採用においては、スペシャリストとジェネラリスト、どちらを求めていますか。
日下
どちらか一方、ではありません。先ほどジョブ・ローテーションの話をしましたが、それは「多様な視点を持つスペシャリスト」を育てたいからです。 隣の部署が何をしているかを知っている技術者は、部門間連携もスムーズですし、より多角的な解決策を出せます。中途採用の方に対しても、「前職で設計だったから設計」と決めつけず、本人の適性や可能性を見て、一番成長できるフィールドを用意したいと考えています。実際、当社は社員の約4割がキャリア採用ですが、入社直後から違和感なく溶け込んで活躍されている方が多いですよ。
吉津
最後に、日下社長ご自身も久しぶりの徳島へのUターンとなります。改めて、徳島での暮らしはいかがですか。
日下
とても快適です。東京や大阪での暮らしも長かったですが、やはり徳島は住みやすい。満員電車のストレスはないですし、海も山もすぐそばにある。 何より、社員も、街の人たちも、みんな「徳島愛」が強い。これは本当に素晴らしいことです。大塚グループ発祥の地であるこの徳島には、世界に通用する技術と、それを支える熱い人たちがいます。 「地方だからできない」なんてことはありません。徳島にいながら、世界を相手にイノベーションを起こす。そんなダイナミックな仕事ができる環境を、ここ大塚テクノで作っていきたい。徳島を愛する皆さんと一緒に、新しい価値を創造できることを楽しみにしています。
吉津
30代での挑戦が日下社長のキャリアを切り拓いたように、大塚テクノというフィールドが、社員一人ひとりの可能性を大きく広げてくれる予感に満ちたお話でした。本日はありがとうございました。

日下 健一

大塚テクノ(株)代表取締役社長

富山医科薬科大学(現:富山大学)を卒業後、1993年に株式会社大塚製薬工場へ入社。研究開発部門や営業部門を経て、静岡支店長、PMMグループ部長、受託事業本部長等を歴任。2023年から執行役員受託事業本部長となり、2024年に大塚テクノ株式会社の代表取締役社長に就任。

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