香川2026.9.9

四国には、未来につなぐべき多彩なブランドがある。ーセトラスホールディングス(株)・木下氏ー

香川2026.9.9

四国には、未来につなぐべき多彩なブランドがある。ーセトラスホールディングス(株)・木下氏ー

瀬戸内の海水を基にしたマグネシウム化合物、合成ハイドロタルサイトなどの製品を提供することで、自動車、電気・電子、建築、医療、農業といったさまざまな産業を支えるセトラスホールディングス(株)。2022年、前身の協和化学工業からホールディングス体制に移行。筋肉質な組織となり、グループ全体がワンチームで、グローバル市場における事業展開を加速させています。そんな同社の経営を担うのが、代表取締役社長の木下幸治氏です。木下氏は「四国にはワクワクするようなブランドがたくさんある。四国ならではの価値を創出し、全国・全世界に発信する手助けをしたい」と意気盛んに語ります。京都出身で、「外からやってきた人材」である木下氏は、セトラスの、そして四国のどんな未来を見据えているのでしょうか。

大手商社から次の進路を選ぶ際、迷うことなく「ここに来たい」と要望


木下社長はもともと商社マンだったそうですね。なぜセトラスホールディングスに転職することになったのでしょうか。
木下
私がセトラスホールディングスの前身である協和化学工業に転職したのは2012年、52歳の時です。しかし当社のことは、それよりはるか20年以上前、前職でニューヨークに駐在していた30歳くらいの時から知っていました。私は三井物産の営業マンでしたが、理系出身なので化学もわかります。「面白い技術を持っている会社だな」という印象でした。
当時の事業の柱は、今も中核となっているマグネシウム化合物や、合成ハイドロタルサイトです。私は樹脂添加剤分野の製品を顧客に紹介するため、同社の研究開発スタッフと共に訪問する機会が多かったのですが、オリジナルの技術や機能を説明すると、お客さまが目の色を変えるのです。通常は容易にアポイントが取れない海外顧客の技術チームでも、協和化学工業の名前を出すと容易にアポイントを取れるぐらいの影響力がありました。
やがて日本に帰国することになり、上司から配属希望を聞かれた私は、「協和化学工業を担当させてほしい」と依頼。三井物産の関西支社に戻り、引き続き当社を担当しました。
7年後、今度はヨーロッパで、合成ハイドロタルサイトが注目を集めました。その頃は塩化ビニール樹脂の安定剤に鉛系のものが使われていましたが、毒性問題で鉛が使用できなくなり、代替として協和化学工業の合成ハイドロタルサイトを主原料とした技術が採用されたのです。当時の社長であった故・松島慶三氏は、オランダ工場の設立を決断。私はサポートのため欧州に渡り、4年半、販路づくりに精を出しました。帰国後も協和化学工業に関わり、16年もの付き合いになりました。
そうした縁もあり、52歳で次の進路を選ぼうとなった時、私は躊躇なく協和化学工業にお世話になることを決めたのです。


加地
大手商社で営業を経験されたのなら、他にも多くのメーカーとのお付き合いがあったでしょう。進路の選択先も多かったと思いますが、なぜ高松という地方都市の会社を選ばれたのですか。
木下
確かに、商社マン時代には多くの化学品メーカーと関わりました。大都市圏に本拠を置く超大手とも、丁々発止(ちょうちょうはっし)で渡り合ったこともあります。しかし、協和化学工業のマグネシウム化合物や合成ハイドロタルサイトは、他のどこよりも「ワクワクする技術」だったのです。
協和化学工業の製品は、ノンハロゲン難燃剤・塩化ビニール樹脂などの安定剤として、世界中のメーカーから引き合いがあり、合成ゴムやスマホなどの情報家電、自動車部品、建築資材、通信ケーブル、包装資材、鉄鋼や電子材料、農業フィルム、繊維など、あらゆる分野で活用されています。原料は海を起源とした物質なので、医薬品の原薬や機能性添加剤などの医薬分野においても、世界中で多く採用されています。
しかも、協和化学工業が使用している原料は、瀬戸内海の海水です。自然の恵みを大切にしながら、従業員ひとりひとりがオリジナリティーを追求し、世界に向けて技術や製品を発信している。マグネシウム化合物は国内シェアトップ、そして合成ハイドロタルサイトは世界シェアトップを誇っています(いずれも自社調べ/2025年売上実績)。私がワクワクするのも当然でしょう。だから、初めて生活する香川にやってくることに迷いはありませんでした。
来てみて感じたのですが、香川は本当に素敵な所です。海に面していて、食べ物がおいしい。山でロードバイクを走らせたり、マリンスポーツも楽しめる。それでいて、東京にいた時と同等のクオリティーでグローバルな仕事もできる。最高なエリアだと思います。

中期経営計画第一期を終え、私以上に社員がワクワクしているのを感じる


協和化学工業の社長に就任されてから、持株会社体制に移行されました。この組織再編がどのような変化をもたらしているか、そのあたりの手応えをお聞かせください。
木下
私たちは2022年、組織再編を実施。持株会社であるセトラスホールディングスのもと、「化学品原薬事業(樹脂添加剤、医薬品原薬など)」を担う協和化学工業、「医薬品事業(医療用医薬品)」を展開するマグミット製薬、「フード事業」を推進するセトラスフードテックという国内の事業会社3社と、海外にある5つの子会社が連なる体制となりました。現在は、中期経営計画「SEBONEプラン」の第一フェーズが2025年に終了し、次の段階に入った、というところです。
この第一期は、余分な贅肉を落とし筋肉質な体を作るトレーニング期間であった、という感じでしょうか。どんな環境になっても対応できるよう、頭と体の訓練をする。そして高い山でも登れるようにする。そのための変化を進めた期間でした。
具体的には、事業ポートフォリオの変更を行いました。また、販売体制の見直しも図りました。今までは商社や他の会社に頼っていたのですが、特にグローバル市場に向けては、自らが直接顧客と向き合っていかないと、新たな価値の創造ができません。そのために組織を構築・拡充しました。これにより、市場の情報やニーズの動向がダイレクトに入ってくるようになりました。こういった情報は、次の製品戦略を策定するための重要な判断材料となります。やはり、自分たちからお客さまのもとに出ていかないとダメだな、ということを実感しています。
他にもさまざまな部分に手を入れました。人事制度や情報戦略も変更しましたし、ブランディングもかなり変えました。樹脂分野における『KISUMA®』、医療分野における『マグミット®』は有名ブランドであるにも関わらず、会社としての知名度が低く、もったいないことをしました。そこで広報部門を立ち上げ、戦略的な広報活動でコーポレートブランディングを実践しています。
会社の進化のため、新たな部門を立ち上げ、人を配置したため、管理部門・間接部門は大きくなりました。いろんな機能が強化され、事業の発展を支えるブレーンも揃ってきており、組織のレベルが高まってきたと感じます。
加地
従業員の皆さんに、何か変化はありますか。
木下
私以上にワクワクしているのではないでしょうか。従来と比べると目の色が違います。計画進捗に関する報告や、事業プランに対する提案の仕方が、全く変わってきました。私が協和化学工業に来たばかりの頃は、外部機関と連携する、という雰囲気はありませんでした。しかし最近では、研究開発部の社員でも「最近出張続きで、報告が遅くなって申し訳ありません」という前置きから報告が始まるようになっています。研究中心のスタッフですら、社外に出ていくことが当たり前になったわけです。情報収集やコラボのために、香川県の外に出ていくようになると、世の中がどう変わっているのか、自らの体感でわかるようになるでしょう。こうしたことを一つとっても、大きな変化だな、と思います。
他にもありますよ。当社では、入社式の中身は全て若手が考えるのです。2026年の入社式は、まず社長の私があるキャラクターに扮装して登場するところから始まりました(笑)。そこでキャラクターに扮した私が、新入社員たちに向かって一言。「私が掲げるミッションを遂行せよ!」というのです。そこからミッションがスタートし、新入社員たちは謎解きに挑みながら、入社式会場を目指します。舞台は栗林公園。ミッションを達成し、会場にたどり着いてはじめて入社式が行われるという設定で、ゴール地点では私が待機しており、「よく来た」と彼らを迎え入れるというものでした。このストーリーを全て考え、準備したのは、若手社員たちです。若手からすると、「セトラスは会社にぶら下がるような人があぐらをかく会社じゃない。それを初日に分かってもらいたい」との意図を込めた、とのことでした。
彼らのプランを聞いた時、セトラスはすごい会社になってきた、そういう発想のできる若手が出てくるようになったのだな、と感じました。そういうふうに、ボトムアップ型でいろんなアイデアが生まれ、物事が始まっていく会社に進化できたことを、嬉しく思います。
キャラクターに扮装するなんて、社長は嫌だと思われなかったのですか。
木下
いやいや、社長こそ率先して何でもできるようにならないとダメだと思うのですよ。だから私は、フード事業でやっているフィナンシェを自分で焼いたりもしますし、何ならレストランで板前をやってもいいと思っています。
加地
2026年には研究施設としてイノベーションセンターを新設されるようですが、これもそうした変化の一つということですか。


木下
グループ内にはいろんなところに研究開発組織が点在しています。当社グループ本体の各事業部にもありますし、海外にもあるし、産学連携でいくつかの大学にもラボを置いています。その中心となるのがイノベーションセンターで、世界中の研究者、あるいは大学の研究機関の研究者がやってきて情報共有したり連携するハブとして機能させたい、と考えています。
ちなみにイノベーションセンターの前には、新しい庭をつくる計画があります。実はこの庭のコンセプトも、会社主導ではなく若手社員たちが中心となって考えてくれました。彼らが掲げたテーマは、「カーボンフリー社会」「循環型社会」「絶滅危惧種の保護」「オープンイノベーション」の4つです。特に素晴らしいと感じたのは、彼らがこの庭を「セトラスと共に成長していく庭にしたい」と提案してくれたことです。最初から立派に完成された庭を用意するのではなく、最初は更地のような状態であっても「自分たちの手で一から作っていきたい」と言うのです。「これから毎年見に来てください。毎年変わっていきますから。その変化こそがセトラスの成長ですよ」と、彼らは語ってくれました。このストーリーを聞いた時、私は涙が出るほど嬉しかったですね。私が指示したわけではないのに、セトラスが目指す世界観と見事に繋がったコンセプトを構築してくれました。無理に繋げようとしても、普通はそこまで考えてくれません。若手たちが自発的にこのような深い発想をし、体現しようとしてくれていることに、大きな意義と会社の進化を感じています。

アグリバイオ技術で、付加価値の高い地域農業を実現する


中期経営計画は第一フェーズを終え、次の段階に入った、というお話がありましたが、どのような目標を見据えておられるのでしょう。
木下
2030年までに、定量的には売上1,000億円を達成する、という目標を掲げています。また定性的には、地球と共生する社会を実現し、地球をさらに豊かにするためにオリジナルの知恵や技術を発揮する会社になりたい、と考えています。
そのゴールに向けて、私は今、社員に対し「会社を勝たせる仕事」をしようと言っています。「自分は営業だから、売って営業成績を上げれば後は知らない」「自分は製造なので、製品づくりだけやっていればいい」とそこで終わってしまうようでは、チームとしての連携が取れず、勝てる組織になりません。そもそもそういう組織は、ワクワク感もないし、面白くないでしょう。当社グループも今や1,000人を超える会社となりました。全員がグローバルなワンチームとなり、「会社を勝たせるんだ」と頑張っていけば、もっと仕事は面白くなるし、事業も発展させられるはずです。
「会社を勝たせる」とはどういうことか。「社会的貢献度の高い製品や価値を提供する」ということです。自分一人ではできないくらいレベルの高い価値を、会社を通じて提供する。そうやって社会貢献し、会社の存在意義を高めることが、「勝たせる」ということなのです。
すなわち「社会に貢献する」ために、製造部は何をすべきか。営業は何をすべきか。人事は…という風に考えるようになってほしいと考えています。人事などは、表面的に見ればお金に直結する仕事をしていないように見えます。しかし社会貢献が自分の目的、と思って仕事に向き合うと、そのためにどういう人を採用し、どういう教育を提供し、また社員の努力に報いる人事制度はどうあるべきか、と考えるようになります。目的意識を持つことで、仕事の質が変わってくるのです。
加地
難燃剤や樹脂添加剤、医薬品添加剤などで、ものづくりや医療のベースを支える、という社会貢献を果たしてこられましたが、今後、事業をどのように発展させたい、とお考えですか。
木下
セトラスという名前は、「瀬戸内海」の「セト」と、ギリシャ神話に登場する神の一人で、地球を支えているとされる「アトラス」を組み合わせたものです。「香川にいながら世界を支える技術やビジネスモデルを発信する会社になろう」との想いが、セトラスという名に込められているわけです。これを実現するには、地元に密着し、地域の活性化に貢献できる事業も始めたい、と思っています。
その一つが、農業分野です。日本の農業、特に四国においては中山間地で農業が行われることが多く、一軒あたりの耕作面積がとても狭いのです。耕作地が少なければ、作物量にも限界があり、農家さんが生活していけません。狭い耕作地で十分な収入を得るには、付加価値の高い作物を手掛ける必要があります。
そこで当社のアグリバイオ事業では、アグリとバイオの技術の融合により品種開発や土壌改良を行い、より付加価値の高い農作物の生産をサポートしたいと考えています。今、農家にお勧めしているのが「夏イチゴ」です。イチゴの旬は春だと考えられがちですが、夏イチゴが旬を迎えるのは夏で、夏でも香り高く甘酸っぱい、瑞々しい味のイチゴが楽しめます。『Scentberry®(セントベリー)』と名付けて商標登録もし、2024年から発売を開始しています。
そのような作物の栽培が可能になると、収入にも跳ね返ってくるでしょうから、地域の農家さんは意欲的に取り組めますね。


木下
私たちが目指しているのは、最低年収500万円になる農業を確立することです。できれば1,000万円くらいにしたい。それをやるには、付加価値の高い作物を作っていかないといけません。そのため、品種開発に関して高い技術を持ついくつかの種苗メーカーをパートナーに加え、さまざまな作物に関する品種開発・種苗量産の体制を強化しました。品種によっては病気に弱い、土壌に合わないなどの欠点を持つものがあります。こうした課題を、当社が得意とするマグネシウム成分を活用した土壌改良剤、活性化剤によって解消し、あるいは遺伝子解析によって品種改良を行い、安定的に収量の見込める品種として農家さんに提供していくわけです。バイオ面では、持続可能な農業の実現に向け、化学肥料や農薬の使用を抑制しつつ、作物の収量増や品質向上を目指すバイオスティミュラントの研究開発に取り組んでいます。『よしeパワー™』という微生物資材の開発を行い、市場へのリリースも始まりました。
次に力を入れているのがトマトです。今、目指しているのは糖度16のトマト。実現できれば、メロンより甘いトマトが誕生することになります。いきなり糖度16は難しいかもしれませんが、12~13くらいならなんとかなりそうで、これでもかなり甘いです。このトマトを3年以内に四国に普及させたい、という目標を掲げています。
アッケシソウという希少な植物にも注目しています。フレンチで高級食材として重宝されるそうで、国内では北海道と瀬戸内海沿岸などで分布記録がある一方、地域によっては絶滅や生育状況不明とされているなど、保全上の配慮が必要な植物です。このアッケシソウの群生がセトラスの保有する土地で確認されているのですが、希少な植物であることから、当社では自生地の保全を行ってきました。
一方で、希少資源を守りながら農業分野で活用する可能性を探るため、種を活用して、人工栽培はできないか、とアグリバイオ部門で研究を重ねていました。それにより、海水を使った水耕栽培を実現させたのです。自前で増やしていけるなら、農業として何とかやっていけそうです。うまく農作物にできれば、高く売れる食材となり、農家さんの利益を増やす存在になってくれるでしょう。
他にも菌茸類など、付加価値の高い農作物に着目し、研究を重ねています。

地域で完結する、農業サプライチェーンモデルを完成させたい


加地
四国ならではの農作物が次々に誕生すると、農家さんにとってはもちろん、地域の活性化にも役立ちそうです。
木下
アグリバイオ技術で品種開発を行う、というだけでは足りません。農業とは、全国の生産地で作った農作物を流通に乗せ、大都市の大消費地に集めて収益を得るビジネスモデルです。なので、ちょっとした傷のあるものや、小さすぎ・大きすぎ・変形しているなどの規格外の農作物は流通に乗せることができません。それらは通常の流通では売れないので、自家消費するか翌年の肥料として使用するしかなかったわけです。
しかし、見た目がちょっと違うだけで、味にも栄養価にも問題もない作物を無駄にしてしまうのは、もったいないし、農家さんのモチベーションも下がってしまうでしょう。こういうことはよくない。そこで私たちが、出口戦略としてのフード事業を作ろう、と思ったのです。
フード事業は、以前は社員食堂を中心としていました。しかし、もう少し本格的にやっていこうと、アンテナショップの機能を持つレストラン運営に取り組んでいます。そこで、地域の農家さんが作った農作物を使用するのです。地元で作る野菜の美味しさを味わってもらうとともに、流通に乗らない規格外の作物をレストラン、あるいは惣菜・弁当ショップで使用し、ロスを減らしながら農家さんの収入アップに貢献していきます。
フード事業を広げるため、ケータリングを行う会社もM&Aしました。そこでも、地元の農家さんが作った農作物を活用していきます。また、ケーキなどのスイーツショップも始めましたし、当社グループが窓口となって各種食材や食品を全国に紹介しようと、通販事業も始めています。こうして「農業の出口」を充実させ、地域内でコンパクトな農業サプライチェーンを形成していこう、と考えています。私たちはこれを「地域型プチ農業サプライチェーンモデル」と呼んでいます。
アグリバイオ事業で地域農業の可能性を高め、フード事業がその受け皿となることで、利益をきちんと地域に還元させる循環ができるわけですね。
木下
アグリバイオ技術で生まれたさまざまな資材や品種を活用してもらうよう、徳島の農業法人もグループに加わってもらいました。私たち自身が農業自体を行うのは難しいので、専門の方々にお任せするわけです。その農業法人が作った農作物の中で流通に乗らないものは全量当社が引き取り、フード事業の方で活用していく、というスキームになります。発展させるにはまだまだ仲間が必要なので、今後も地域の農家さんや農業法人にどんどん加わってもらうつもりです。
品種や土壌に加え、営農に必要な各種設備、例えば太陽光発電なども扱っていくつもりです。そうやってカーボン・オフセット型のモデルを作れば、より多くの農家・農業法人が参加しやすくなるでしょう。エネルギーと農業・食がつながったモデルがあれば、例えば大規模災害への備えにもなるはずです。そうなれば、自治体ともうまく連携できるかもしれません。そうやって四国全体に波及させられる形にしていきたい、と考えています。

四国には、他のどこにもないブランドと文化がある


加地
地域で完結できるそれらの仕組みがうまく回るようになると、四国の新たな魅力となってくれるのではないでしょうか。
木下
四国はもともと、魅力に溢れた地域だと思います。農業の出口戦略の一つとして通販事業を始めた、と言いましたが、これは『しこくあーけーど™』というECサイトのことです。しこくあーけーどを立ち上げる際、中心に据えたのが「Re:born 四国」、つまり四国の再生、リブランドです。四国というと、なぜか北海道や九州などと比べ、ブランド力で負けているように思われがちです。しかし決してそんなことはありません。四国にもいいブランドがたくさんある。これらのブランドを再生し、高めていこう、という想いが、しこくあーけーどの出発点になりました。
多くのブランドが四国にある、と気づいたのも、アグリバイオやフード事業を始めたからです。これらの事業を通じさまざまな生産者さんとつながる中で、世界に発信し、未来につないでいくべきブランドが、四国にたくさんあることを知りました。
酒蔵もその一つで、四国には80数カ所もの酒蔵があるのです。しかし小規模な酒蔵も多く、いいものを作っているのに先行きが見通せないところもたくさんあります。そこで、契約した徳島の農業法人に、酒米として有名な「山田錦」や、高知の酒米「吟の夢」を香川で作ってもらい、各酒蔵に提供。そうやってできたお酒を、しこくあーけーどを通じて全国に紹介しています。
また、四国には醤油屋さんもたくさんあります。日本で唯一、「むしろ麴法」という江戸時代から続く工法によってつくっている醤油もしこくあーけーどで扱っています。フード事業ではフィナンシェを作ったりしていますが、そこで使う小麦は地元で育てたものですし、砂糖も地元の和三盆。また隠し味として、地元の醤油を使ったりもしています。
農業から始まって、いろんなものが作られる。そうした四国の魅力を、ECサイトを通じて全国に発信し、知ってもらい、多くの人に利用してもらう。それにより、四国全体が潤う。そうやって四国を支えられる会社にならなきゃいけない、と思っていますし、徐々にそういったことが広がってきている、と手応えを感じています。


四国出身でなく、外から来られた木下社長だからこそ、四国の良さが見えるのかもしれません。
木下
確かに、私は京都出身で、外から来た人間だからわかるのかもしれません。ずっといる人は「何もない」と思うかもしれないけど、そんなことはありません。四国はとてもいいところですよ。暮らしやすい日常があります。壁にぶつかっても、自然豊かな中でリフレッシュできる。コンクリートと人混みに囲まれて仕事をしていた頃のことを考えると、夢のようです。
四国には新幹線が通っていません。それをデメリットと言う人もいるのかもしれませんが、そのおかげで、地域ならではの価値が色濃く残っている、日本で唯一と言ってもいい存在です。だから四国は、4県がしっかりと手を組み、独自性を高めていった方がいいのではないでしょうか。
これはあくまで私の夢ですが、四国が「自転車の島」になればいいのに、と思います。4県が協力して「ツール・ド・四国」なんてやったらいい。1,900m級の山もあれば、渓谷がある。日本一と言われる清流もある。瀬戸内の多島美がある。そして四国八十八ヶ所巡り(お遍路)という文化もある。お遍路さんに対するご接待なんて風習が根付いている。それは外からやってきた人からすると興味深いし、嬉しいものですよ。ここにしかないものがたくさんあるじゃないですか。
そういうところを自転車で回ろう、ツール・ド・四国を開催しようとなったら、世界中から人が集まるのではないでしょうか。作られた文化、作られた観光地ではなく、その地に昔からあるものが見たい。そういった“本物”こそが世界中の人々の共感を呼ぶのだと思います。
当社グループにとっては、瀬戸内海に面していることが、事業の上で重要な役割を果たしています。しかしそれだけでない、働き方の上でも大事なのではないでしょうか。仕事をするための日々の活力を与えてくれる。それが瀬戸内であり、四国という地域ではないか。私はそう感じています。
加地
「外から来た人」である木下社長が四国に多くの可能性を感じておられることを知り、私たちもこの四国の魅力をもっと深掘りしていかないといけない。そんな思いを新たにしました。
本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

木下 幸治

セトラスホールディングス(株)代表取締役社長

1960年生まれ。京都大学工学部石油化学科(在学中はアメリカンフットボール部に所属)を卒業後、1985年に三井物産株式会社に入社。2012年、協和化学工業株式会社に執行役員社長付として入社。2013年6月、取締役に就任し、営業部長、医薬品営業部長などを務め、取締役副社長、代表取締役副社長を歴任。2021年10月、代表取締役社長に就任。2022年10月よりホールディングス体制に移行し、事業会社3社と持株会社であるセトラスホールディングス株式会社に再編。同社の代表取締役社長に就任。グループを統括し、「グローバル・ワンチーム」を信条に掲げて国内・海外グループ1,118人の従業員が一丸となって働ける環境づくりの実現に注力している。

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