INTERVIEW2021.12.22

四国・徳島発!ベンチャー経営者と考える「働く」価値。ー(株)電脳交通・近藤洋祐氏ー

INTERVIEW2021.12.22

四国・徳島発!ベンチャー経営者と考える「働く」価値。ー(株)電脳交通・近藤洋祐氏ー

四国エリアを代表するベンチャー企業として成長を続けている(株)電脳交通。タクシー業界のDX化推進に取り組む同社を立ち上げたのが近藤氏です。近藤氏はメジャーリーガーを目指し18歳で単身アメリカへ渡り、4年間挑戦。その後、廃業寸前であった家業の吉野川タクシー(有)を事業承継し、再建を成し遂げました。2015年からはCTOの坂東氏と電脳交通を立ち上げて、タクシー業界および交通業界のアップデートに挑戦をしています。近藤氏の思い描く電脳交通の未来、四国・徳島への想いなどを伺いました。

メジャーリーガーへの挑戦を経て、家業のタクシー会社を事業承継。


佐々木
近藤さんは高校卒業後、メジャーリーガーを目指して、アメリカにて4年間挑戦されました。なぜアメリカでの挑戦を決断されたのですか?
近藤
他のスポーツをやっていましたが、野球を始めたのは実は高校1年生からです。私は野球のエリート街道は歩んでいませんが、初めて夢中になれたスポーツでした。当時イチロー選手がメジャーリーグで大活躍をしており、そしてメジャーリーグでのプレーを夢見るようになりました。メジャーへの憧れが原動力でしたが、やはり常識や固定観念に縛られずに挑戦したい想いが強く、決断しました。
佐々木
憧れが原動力だったんですね。メジャーを目指されたということは、野球はかなりお上手だったんですか?
近藤
正直なところ、微妙でした(笑)。草野球ではエース級ですが、プロの世界では下の上くらいだったんじゃないでしょうか。他の選手とは違うやり方でないと追いつけないと考え、当時では珍しかった科学的なトレーニングを自分で研究して、実践していました。高校1年生から野球を始めて、高校3年生の時には球速130kmを超えました。創意工夫する力と成長角度は高かった思います。
佐々木
4年間のアメリカでの挑戦を経て、どのような学びがあったのですか?
近藤
アメリカでは努力の過程は評価されないし、言い訳も通じません。ケガにより投手から野手への転向もしました。そして、1軍への昇格も経験しましたが、1軍には定着できずチャレンジは終わりました。この経験を通じて、どんな状況でも「結果」を出すことに徹底してこだわることを学びました。また、失敗を恐れずに必死にチャレンジするという自分の性格をより強固にしたと思います。
佐々木
結果へのこだわり、そして、失敗を恐れないチャレンジ精神を再認識されたんですね。
近藤
私の特徴かもしれませんが、思い込んだら実現するまでチャレンジを続けていく「実行力」を持っています。言い換えれば、欲しい事実を手に入れる力。強く思いこむことで、実際に行動し、手に入れるということを若い頃からずっとやってきたのかもしれません。ただ、この能力はプロスポーツという分野では成功しませんでしたが、ビジネスであれば活かせるのではないかという確信がありました。
佐々木
近藤さんは想いの強さがあるにも関わらず、常にフラットに自分自身を見ている印象があります。
近藤
これは子供の時からですが、洞察・考察・観察は常にやっています。自分自身はもちろんですが、目の前に起こる事象を客観的に見る癖がついています。常にフラットに物事を見ていることで、自分の強みや弱みを踏まえて、自分のありたい姿に近づくためにはどうするかを常に考えています。
佐々木
厳しいマーケットと言われるタクシー業界ですが、帰国後はなぜ吉野川タクシーを事業承継されたんですか?
近藤
会社を経営していた祖父が脳梗塞となり、苦労する家族を助けたいという想いがあり事業承継しました。タクシー9台という零細企業でしたが、自分が勝負する場所はここだと直感しました。廃業寸前という状況でしたが、失うものがないという状況をポジティブに捉えて、ネガティブからのスタートが自分のポテンシャルを活かせると思い決断しました。
佐々木
廃業寸前のタクシー会社の再建、何が近藤さんを突き動かしたんですか?
近藤
当時の私にビジネスセンスがあったら継いでいなかったかもしれませんね(笑)。経営状況も良くなく、また、タクシーのマーケット自体も縮小しているので、もっと割の良い業界・仕事を選んだかもしれません。ただ、メジャーリーガーの夢が破れ、ビジネスで自分の能力やポテンシャルを活かしたいという想いが強かったです。そのため、自分に与えられている環境で、出来る事からひとつずつやってみようと考えました。
佐々木
再建の道のりはどうでしたか?
近藤
非常に苦労しましたが、経営者としては非常に良い経験になりました。メンバーはみんな年配で、癖の強い人も多かったです。また、身銭を切って損失を穴埋めするほど、事業も赤字続きでした。私自身もモチベーションを維持するのが難しく、何万回も辞めようと思いました。ただ、なぜか母親がずっと根拠なく応援してくれていました。私が辞めたいと言っても、母が「もうちょっと頑張ってみたら」といつも声をかけてくれました。心が折れそうになっても、「あと1日だけがんばってみよう」という想いを積み重ねて、経営再建をやってきました。創意工夫する力やハングリー精神をもっていましたが、自分自身の力ではなく、周囲のサポートがあったからこそ、やってこれたと思います。

電脳交通の誕生は必然だった。徳島への想いを込めて起業。


佐々木
吉野川タクシーの経営再建におけるポイントは?
近藤
吉野川タクシーの経営再建においては、ITを積極的に活用して取り組みました。現在の電脳交通の主力サービスである、クラウド型配車システムの原型となる仕組みを考えて、運用しました。配車システムを活用し、顧客管理を個人任せではなく組織として行い、お客様へのサービスレベルを向上させていきました。結果、一人一人にあった「おもてなし」を実現することができ、お客様からの評価・評判もアップしました。また、組織の若返りに向けて、採用にも注力しました。タクシー業界の課題は、タクシー業界の良さを伝えられていないことでした。マーケティングやITに詳しい人材が少なく、企画や言語化して十分に外部に伝えられていませんでした。吉野川タクシーの採用が上手くいったのは、マーケティングやPRの力が大きいです。新しいことにチャレンジしていたので、それをしっかりとPRしました。おかげさまでメディアに取り上げて頂く事も増えて、採用にも活かすことができました。採用弱者であるという認識のもと、他社や他業界とどう差別化してアピールするかを考え続けて、取り組めたことが大きいです。
佐々木
電脳交通の創業はいつから考えていたのですか?
近藤
吉野川タクシーを事業承継する時から、第二創業はインターネットでしようと考えていました。私個人としては、経営者としてゼロから創業したいという拘りはありません。ただ、現実的に考えて、吉野川タクシーを全国展開するのは厳しいだろうと考えていました。そもそも徳島で起業したのは、故郷・徳島への危機感があるからです。四国は課題先進エリアで、過疎地であり、いずれ課題に直面することは待ったなしの状況です。徳島に貢献するためにも、「稼いだお金で地元に貢献する」と決めました。そして、それを叶えられるのは、インターネットだと。古い産業であればお金を持っている企業が勝ってしまう可能性が高いので、弱者の戦略として、インターネットで勝負しようと決めていました。
佐々木
人材採用では大都市圏の方が採用しやすいと思いますが、徳島本社でやるのはなぜですか?
近藤
なぜ徳島本社を変えないかという部分にもつながりますが、徳島に貢献したい想いが強いからです。徳島生まれである私が、生まれ故郷にどれだけ貢献できるか。ビジネスを通じて、雇用を増やし、売上を高めて、徳島へ貢献していきたいという気持ちの部分です。アルバイト含めて139名まで成長しましたが、半数以上は徳島にて雇用しています。また、私個人の志として、徳島を代表する大塚製薬のような存在を目指して、事業の成長と向き合っています。
佐々木
やはり、徳島に貢献したいという気持ちが強いのですね。
近藤
また、都市圏の人材が徳島で働く機会が増えることで、徳島・都市圏両方の人材にとってプラスになると思っています。事業の成長に伴い、採用を強化する中で、都市圏で働いたメンバーが徳島でも働いてくれています。徳島に縁がなかったけど、仕事を通じて徳島に移住して働く社員もいます。ちょっとニュアンスが伝わりづらいですが、都市・地方における人間的な情理の違いを感じてもらうことで成長につながると思っています。私自身、東京の第一線でやっていたタイプではないですが、論理を超えた世界で生き抜いてきた自負があります。都市圏の人にとっては地方ならではの「情理」を学び、徳島の人にとっては都市圏ならでは「論理」を学ぶことができ、それが人間的な成長に少しでも繋がればと思っています。
佐々木
私も人との関わりの中でこそ、人間的な成長が生まれると思います。メンバーとの関わりに対して、どのようなことを大切にしていますか?
近藤
私が関われる人々に、少しでも良い影響を残したいと思っています。そして、彼らの人生にどれだけインパクトを残せるか。人間「近藤洋祐」として、こいつはヤバイと思ってもらえたら本望です(笑)。一度きりの人生、おさまり良く進めることだけでなく、人生仕掛けてなんぼと思えるか。そんな挑戦心を持った人達を一人でも多く増やしたいという想いを持っています。何のために仕事しているのか、人生にどんな足跡を残すのかを常に意識し、挑戦を続けて欲しいと思います。

電脳交通が見据える未来と優位性


吉津
2021年10月より新規事業がスタートしましたが、どのような背景があるのでしょうか?
近藤
全国自治体・公共団体向けに各地域の実情に応じた交通サービスを実現できる、地域交通ソリューション事業を正式にスタートしました。電脳交通は、創業以来全国各地で進めていた地域交通に関する実証実験から得た知見と、タクシー配車システムの機能を組み合わせてサービス提供を行います。デマンド交通や乗合サービスなど既存公共交通を補完する交通インフラ・交通事業者との連携を行い、地域活性化を実現するために行っています。
吉津
タクシー業界のDX化推進を行い、現在は地域交通領域へのサービス展開もされていますが、今後の事業の方向性をどのように考えていますか?
近藤
今後の事業の方向性としては、街づくりに関わっていきたいと考えています。もちろん、ビルを建てるのではなく、「人流」という観点での街づくりです。「人流」を通じて街をプログラムする、という感覚が近いかもしれません。タクシーはドアtoドアで移動ができる公共交通です。高齢化が進めば進むほど、ドアtoドアのニーズが増加していきます。そのようなニーズに対して、データを活用して、街づくりに活かしていくことにチャレンジしたいと思っています。課題先進エリアである四国・徳島にいる電脳交通だからこそ、あるべき姿を考えて、やり抜きたいと思います。そのためには、現在のタクシー事業者様向けのサービス拡充はもちろんですが、タクシー業界以外の人流データも活用した街づくりに取り組みたいと考えています。
吉津
人流データを活かした街づくりはとても面白いですね。インフラといっても過言ではないですね。
近藤
インフラとして機能するために、電脳交通がプラットフォーマーになっていく必要があります。そのためにも、更なるサービス展開・拡充を図り、当社サービスのシェア拡充を行っていきます。そして、タクシー業界はもちろんのこと、地域交通全般に関わっていける存在になりたいと思います。
吉津
電脳交通は成長を続けていますが、競合他社と比較して何が強みなのでしょうか?
近藤
現場を知っていることが強みでしょうか。たとえ能力が一緒でも、基礎の基礎をやっている・知っていることが差別化要因になります。吉野川タクシーの経営再建を通じて、現場を経験し、実務を創ってきました。遺伝子レベルで現場が分かっていると言っても過言ではありません(笑)。現場を知っているからこそ、必要最低限のライン・割り切れるラインを知っています。きらびやかではない、課題感たっぷりの現場も分かっているからこそ、何が大事かを掴んでいます。その共通理解があるからこそ、サービス導入頂いてる事業者様からも評価頂けていると思います。
吉津
やはり現場の課題を分かっているというのは最大の強みだったんですね。
佐々木
私は四国エリアの多くのベンチャー企業の採用支援を行っていますが、やはり現場感のある会社は強いですね。現場の課題感を「捉えている」だけでなく、「分かっている」ので、打ち手がシャープでパワフルですね。
近藤
また、タクシー業界が「愛おしい」という想いがあります。色々な人がいるタクシー業界ですが、生産性も低く、課題も多い業界です。ただ、私も運転手からキャリアをスタートしましたが、お客さんと距離が近いので、人生の話を聞くことも多く、人間としての厚みが増していく場でもありました。乗務員と乗員の関わりが絶対にあるのがタクシーです。人との距離感や感性を学ぶことができる、「人生の交差点」でした。そうした経験を通じて、人間の原始的な部分である「情理」を学べたのかもしれません。そんなタクシー業界をぶっ壊すのではなく、私たちが介在してアップデートしていきたいという想いが強みかもしれません。
吉津
業界の中にいるからこその強みですね。
近藤
業界の課題や立場なども分かっているからこそ、私たちがプラットフォームを目指して取り組む意味があるのかもしれません。私たちは交通事業者という視点とIT企業という視点の2つを併せ持っています。だからこそ、異業種であっても、問題を起こさずに調整していける人が多いのだと思います。相手目線に立ち、双方の利害を踏まえてディレクションができること。そして、ロジックだけでなく、気持ちの部分も踏まえて、現場を理解できていることが強みだと思います。

四国エリアがもっと面白くなるには?


佐々木
四国・徳島で事業を展開する想いなどもお聞かせ頂きましたが、四国がもっと面白くなるには、何が必要でしょうか?
近藤
もっと挑戦する人が出てくるようになればいいですね。そして、私自身も挑戦の先頭に立ち続けて、少しでも多くの方々に影響を与えられるようになっていきたいと思います。私の経験で言えることになりますが、起業して挑戦する上で大切なことは、成長性あるビジネスモデル、そして、調達力の2つがポイントとなります。成長性のあるビジネスモデルについては、人を巻き込むことができるだけの「魅力」が必要となります。また、調達力については、資金と人材です。資金については、信用や紹介があれば話は聞いてもらえますし、その人自身のポテンシャルが重視されます。人材については、1億~2億のビジネスだと人材も集まりづらいですが、10億~100億のビジネスが見えてくれば、人材は集まりやすくなってくる傾向があります。
佐々木
成長性のあるビジネスモデルと調達力の2つがポイントですね。
近藤
また、四国の外にも目を向けて、情報や刺激を得て、成長を描いていけるかが重要です。私自身も積極的にビジネスコンテストなどにも出場して、事業をブラッシュアップしてきました。Tech CrunchTokyo2018スタートアップバトルに出場した際は、「ジェラシー」を感じるほどのスタートアップ企業が多くあり、私としては非常に刺激になりました。ただ、そのスタートアップバトルには20社くらい参加していたと記憶していますが、現在のところ2~3社くらいしか成長できていないのが実情です。そのため、みんな起業すればいいとも思っていません。スタートアップだけでなく、2代目・3代目などの第二創業もありますし、会社の中で新規事業を立ち上げてみることでも良いと思います。まずはチャレンジしようとする思いを持った人が増えることが大切だと思います。私自身、セミナー講演などで多くの人々の前でお話する機会を頂くことがありますが、私の話を聞いて、一人でも多くの方にとって「刺激」になれればと思っています。
佐々木
そうした「刺激」を受けて、何を感じるかが大切ですね。最後に一言お願いします。
近藤
今の時代は、若者の「大義」が武器になると考えています。四国エリアは人口も減っており、本質的に稼ぐ力が弱まってきています。そして、世代交代をしないといけない風土・タイミングは醸成されてきています。そのため、若者が「大義」を持って取組めば、応援してもらえる環境になっていると実感しています。今は「人」に投資が集まる時代です。私も「タクシー業界や地域交通は、俺に任せて欲しい!」としか言っていません(笑)。ただ、実際に多くの方々からご期待を頂き、資金が集まり、事業や人材への投資を行っています。経営者・企業としても更なる成長を目指しますが、四国・徳島を代表する企業になり、地元・徳島にもっと貢献できるように邁進していきます。
佐々木吉津
本日は貴重なお話、ありがとうございました。

近藤 洋祐

(株)電脳交通 代表取締役CEO

徳島県出身。高校から野球を始め、メジャーリーガーを目指し18歳で単身アメリカへ。4年間挑戦するも、1軍定着はできず帰国。その後、祖父の経営するタクシー会社の経営危機に際して、家業を継ぐことを決意。2012年に吉野川タクシー(有)の代表取締役CEOに就任し、廃業寸前だった会社をITやマーケティングを取り入れることで再建。その経験を踏まえて、タクシー事業者が抱える課題を解決したいと考えて、株式会社電脳交通を2015年にCTOの坂東氏と共同創業。また、2019年には一般社団法人XTaxi(クロスタクシー)を立ち上げ、代表理事に就任。地域交通領域の活性化をライフワークとして、日々活動している。

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