INTERVIEW2021.10.27

快適な暮らしと世界一に挑戦する働き方を両立。その背景にはバックキャストの思考があった。ー(株)タダノ・氏家俊明氏ー

INTERVIEW2021.10.27

快適な暮らしと世界一に挑戦する働き方を両立。その背景にはバックキャストの思考があった。ー(株)タダノ・氏家俊明氏ー

東京都出身で、大手総合商社に勤めていた氏家氏が、Iターン転職で香川にやってきたのは2019年。ほとんど足を踏み入れたことのなかった香川でセカンドキャリアを築こうと考えたのは、タダノなら本当に世界一になれる、そのポテンシャルがあると確信したからだ、と言います。社長として陣頭に立ち、グローバル市場を勝ち抜くための采配を振るいつつ、本人曰く「快適でアメリカン」なオフタイムを満喫する氏家氏に、四国で働くことの意義についてお聞きしました。

必要な機能がコンパクトにまとまった住みやすさ


加地
2019年のタダノ入社とともに東京から香川にIターンされたとのことですが、香川の暮らしはいかがですか?
氏家
父が転勤族で子どもの頃は転々としており、中学からタダノ入社までの間は海外勤務を除き、東京ベースで暮らしていました。家族を伴った本格的な移住は今回が初めてで、一言で言ってとても快適ですね。海沿いの自然豊かな場所に居を構えているのですが、15分も行けば都市の中心部まで行ける。東京だと、銀座から15分のところに住む人なんてほとんどいませんが、高松なら可能。生活に必要な機能がコンパクトにまとまっていて、すごく住みやすい。私にはアメリカンを感じさせてくれる環境です。
加地
アメリカンですか!?
氏家
スーパーでもレストランでもたいてい駐車場が併設されていて、車で自由に移動できるでしょう。私は前職でアトランタに5年ほど住んだことがありますが、どこでも車で移動できるのはアトランタと同じ。平日はともかく、土日に出かけるとなると、車で移動したい。高松ではその希望が普通に叶いますから。私は退職後、ハワイで暮らそうかと妻と話していたのですが、海が近く、温暖で、車で自由に移動でき、行きたい所に短時間で着けるのだから、ここはハワイみたいだと妻も喜んでいますよ。
加地
それは斬新な発想ですね。ずっと香川にいると、なかなかそういう点に気づきません。
氏家
瀬戸内海に近いというのは、ビジネス上もメリットがあるんです。タダノの工場は海に面していて、製品を海路で運べます。工事現場内だけで稼働するクレーンを造っても、道路で運搬する場合は必ず道路交通法の制約を受けます。しかし海路から直接現場に運べば、制約から解放されます。海外への製品輸出を考えても、断然都合がいいんです。

タダノには、世界一になれるだけのポテンシャルがある


加地
ところで氏家さんは総合商社の建機部門で長く勤めておられたので、タダノ以外の多くの建機メーカーを、海外を含め知っておられると思います。その氏家さんがなぜ、タダノでセカンドキャリアを形成しようと考えられたのでしょうか。
氏家
タダノは「LE(Lifting Equipment)世界No.1を目指す。」という長期ビジョンを掲げています。ビジョンとして世界一を掲げる企業はあっても、そこまでのポテンシャルを持つ会社は多くない。タダノはその稀有な1社だと確信するからです。部品メーカーなら世界一の企業も国内にあるでしょうが、タダノのように完成品メーカーでトップランナーになれる会社は、珍しいのではないでしょうか。
溝渕
タダノのどういう点に、世界一となれる可能性を感じるのですか?
氏家
1955年の油圧式トラッククレーンの開発から、完全に独自路線で技術開発を続けていること。でありながら、世界と戦える製品を生み出している点ですね。日本の建機業界は第二次大戦後、欧米の機械を真似したり、ライセンスを組む形で発展してきました。タダノはそうした流れに与せず、香川でひたすら爪を磨いてきた。全くのゼロから技術を積み上げてきたわけです。技術基盤の厚さはすごいと思います。
それだけではありません。世界情勢は加速度的に変化しており、単一の企業だけで変化スピードについていくのは、ますます難しくなっています。独自路線を歩む企業にとって変化対応力は大きな課題ですが、タダノは決して頑迷な企業ではありません。約30年前にはクレーンのキャリア(走行体)部分を製造するドイツのFAUN社を買収しました。そして2019年には、同じドイツのDemag社を買収。クローラークレーンを製品ラインナップに加え、従来はオールテレーンクレーンの550tが限界だった吊り能力を3000t以上にアップさせました。これらの買収は、スピーディーな革新を実現するための、極めて正しい選択だったと捉えています。ほぼ無借金経営で、十分な投資余力があったからこその決断でもありますが、自社の基盤に他社の技術をアドオンすることで、タダノの進化は加速すると思います。
加地
独自技術を蓄積しており、ここぞという時には他社技術を吸収しようという決断力も投資余力もある。そこに、氏家さんが前職で培った視野の広さを加えてタダノをスピーディーに進化させ、世界一への歩みを進めよう、ということですね。
氏家
私はある意味“よそ者”です。ずっとタダノにいたわけではないから、クレーンのことは社内一知らない人間かもしれない。でもよそ者だから、知らないことをはっきり知らないと言えるし、外の世界の人間とも遠慮なく話せます。そういったよそ者としての特徴をいい方に活かすことが、私の役割の一つかな、と感じています。タダノの周りにはサプライヤーなど大切なステークホルダーがたくさんいます。お互いに尊重し合わなければならないのは当然としても、気を使いすぎて遠慮してしまう…といったことがあれば、そこは変えていかないといけません。世界は猛烈なスピードで変化しているのに、内輪ばかり気にするのは違うよ、と。みんなで前に進みましょう、お互い切磋琢磨しましょうと言っていかないと、タダノどころか日本全体が沈みかねません。欧米や中国は、想像もできないほど早い動きで技術革新をしているので、ある日突然異次元の製品が登場し、私たちは驚いて指を加えて見ているだけ…という状況が生まれないとは限らない。海外のスピードについていかないと何歩も遅れてしまいます、ということを遠慮なく言えるのは、私が新参者であるからこそではないかと思います。

ある程度のキャリアになったら、人生をバックキャストした方がいい


溝渕
世界一を狙っていくために、氏家さんはどんな戦略を練っておられるのですか。


氏家
Demag社買収に象徴されるのですが、今日、世界の建設プロジェクトはどんどん大型化しています。これは世界的に進むカーボンニュートラルも無関係でなくて、風力発電などが分かりやすい事例です。脱炭素化を目指すなら風力の活用は外せません。一基で多くの電力を起こそうと思えば、必然的に風力発電は大型化します。100mものポールの上に80~150トンの発電機を据え付ける、といった工事が必要になるのですが、ここに欠かせないのが十分な吊り能力のあるクレーンです。また都市部の主要駅を移設したり、橋を移設するなどの工事にも、吊り能力の大きなクレーンが必要です。従来型クレーンが中心の長期工事では、交通渋滞を引き起こすなど、人々の生活にも地球環境にも悪影響を及ぼします。
視点を変えれば「十分な能力を持つクレーンがあれば、今までできなかったインフラ整備などの重要工事が可能になる」とも言えます。吊り能力の創造によって社会の課題を解決する、すなわち「Lifting solution(LS)」の展開が重要になると思います。こういう問題があり、解決にはこれこれの技術が必要になる。だったらタダノがその技術を提供しましょう、と。
加地
世界の課題を技術によって解決する。それが世界一につながる、ということですね。
氏家
他にもいろいろあります。電動化・脱炭素化技術の実現は避けて通れません。またクレーンの安全性を向上させる技術も不可欠でしょう。一般の乗用車はカメラとセンサで事故を防ぐなど安全性を高めていますが、ボディーが巨大で死角の多いクレーンの場合、より高度なセンシングが必要となります。カメラとセンサを増やせば見える部分は増えますが、コストがかさんでしまう。必要以上に機器を増やさずセンシングするには、ITを応用しないといけないでしょうね。DX推進による生産ラインのデジタル化や製品の稼働状況把握も、もっと進めていきたいと思います。
これらを実現するためには中途採用人材の活用に力を入れないといけないでしょう。電動化技術や安全性向上にプロパーだけで実現しようと思うと、開発メンバーが100人いても全然足りなくて、500人くらいにしないといけない。でもいきなりそこまで拡大するのは無理だから、買収による他社技術の吸収に加え、どうしても中途人材が必要になります。私たちが取り組もうとしているのは、一般の乗用車などに関わっている技術者のスキルが転用できる分野です。今、そういう分野で働いていて、「自分はこう思うのだけど、会社の方針とは食い違う。このままで自分の能力が発揮できるのか」と疑問に思ったり、新しい何かを実現したいと考えているのなら、一度タダノに来てみてはどうですか?と勧めたいですね。当社でできることがあると思いますよ。
溝渕
氏家さん自身、タダノのポテンシャルに魅力を感じ、自身のキャリアを活かせる場所としてIターン転職したのですからね。
氏家
技術者や、新しいプロダクトに関わっている人なら誰でも、一度バックキャストしてみるべきだと思うんです。未来のありたい自身の姿をゴールとして、現在の役割や働き方を見直す。自分はどんなキャリアを形成したいのか、そのために今、何をすべきなのか、ぜひ考えてみてほしい。
加地
私たちも多くのUIターン転職希望者と会いますが「培ってきた経験やスキルを生かして地元に恩返しがしたい」「地元の企業に役に立ちたい」を理由に挙げる方は最近多いですね。氏家さんもそのお一人ですが、そうした方々は例外なく、エネルギーがすごく出ています。


氏家
転職にはエネルギーがかかるものです。昔からの仲間に囲まれていた環境を捨て、新たに“よそ者”として入っていくのですから。それでも敢えてチャレンジする、自分の人生をバックキャストすることに意味があるんじゃないでしょうか。自分がそれなりの経験や知識を備えたキャリアになった時、「世の中の役に立ちたい」とか「自分が本当にやりたいことをやりたい」と考えてみる。そこに向かうために現状の会社や働き方では時間が十分にない、あるいは何かが足りないと感じたら、それこそ転職のタイミングかも知れません。

四国からでも、グローバルなやり取りが可能になった


溝渕
四国ならではの働く価値について、氏家さんはどのようにお考えですか?
氏家
生活の快適さ、利便性は既に述べたとおりです。そうした快適な環境にいながら「グローバルな市場に挑戦し、世界No.1を目指せる」というのが一番でしょうか。コロナ禍でオンライン利用が進んだことにより、物理的な距離の問題はほとんど感じなくなりました。タダノグループ5000人のうち、2000人はドイツで働いていますが、彼らとのオンラインでのリアルタイムなやり取りも、今では普通のこととなっています。もちろん、オンラインでつながっていればガバナンスもコミュニケーションも万全になる、というほど簡単な話ではありませんが、グローバルな人的交流が可能になり、世界市場を意識した発想がしやすくなったのは間違いないでしょう。
地方にいながら、世界に視野が広がる。香川で快適な暮らしを送りながら、世界No.1に挑戦できる。そんな働き方を選択して良かったですね。そういうチャンスをもらえたことに報いるためにも、まず私自身が自分のベンチマークを作り、誰よりもスピードを意識して行動しないといけないな、と思います。在任中にどこまで行けるかわからないが、世界一になるための環境整備、機会づくりに力を尽くすつもりです。
加地
氏家さんの舵取りで、タダノがどう進化するのか、楽しみです。その進化に多くのUIターン転職者が参加すれば、スピードがさらに上がるでしょう。そういう意味でも楽しみです。今日はありがとうございました。

氏家 俊明

株式会社タダノ 代表取締役社長・CEO

1961年生まれ。東京都出身。慶應義塾大学経済学部(ラグビー部)を卒業後、1984年に丸紅株式会社に入社。建設機械部長・経営企画部長・執行役員・常務執行役員・輸送機グループCEOを歴任。2019年、株式会社タダノに取締役執行役員専務として入社。2020年、代表取締役副社長に就任し、企画管理・グローバル事業推進・CS・国内営業・海外営業・米州事業統括・営業統括部門を担当。2021年、代表取締役社長・CEOに就任。

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