INTERVIEW2025.1.29

クレーン業界のリーディンカンパニーとして、信念をもって業界スタンダードを創る。ー(株)タダノ・合田氏ー

INTERVIEW2025.1.29

クレーン業界のリーディンカンパニーとして、信念をもって業界スタンダードを創る。ー(株)タダノ・合田氏ー

2023年にフル電動ラフテレーンクレーンを業界に先駆けて開発。以降、製品全方位の電動化を実現することで、「カーボンニュートラル」「建設業界の省人化」という社会課題の解決に寄与しようとしている(株)タダノ。同社の技術系トップとして製品開発・改善を主導しているのが、取締役・執行役員常務の合田洋之氏です。「開発とは、厳しい日々の積み重ね。だからこそ、完成したその時の達成感が大きい」と語る合田氏に、四国ならではの働く価値についてお聞きしました。

社会の変化とともに、開発スピードは加速している


溝渕
合田さんが新卒でタダノを選んだ理由を教えてください。
合田
工学系の大学院で学んだので、就職先はメーカーだろうと思っていました。当初は漠然と自動車メーカーをイメージしていたのですが、先に就職していた先輩に「大企業には大企業なりの面白さがあるが、自分の守備範囲が狭くなるのはデメリット」と聞いたのです。
シートとかミラーとか、入社してずっと一部門の設計だけをやるのは、性に合っているか…と疑問を感じました。
そういう私にとって、ちょうど良い規模感だったのがタダノです。技術者が一つの分野に固定されることなく、製品開発の全体感を捉えながら、あらゆる部門に関わっていける風土がありました。ローカル企業のいい意味での柔軟さを感じ、ものづくりを楽しめるんじゃないかと思ったのです。
それに、プロダクトが巨大ですからね。これほどダイナミックな建設機械を自分の手で生み出せるチャンスなんてないのではないか、という点も魅力でした。
入社後は、希望通り開発に配属となり、ずっとクレーンの開発に携わっています。


佐々木
入社された1990年代前半と今では、開発のテーマに随分違いがあるのではないですか。
合田
大きく違うのはスピード感ですね。私が入社した当時は創業から70年が経っていましたが、クレーンの新規開発プロジェクトは30機種目でした。
それが現時点では90機種目の開発が進んでいます。入社後30年で60機種を開発したことになります。これらからも、プロダクトの開発スピードが格段に挙がったことがわかります。
佐々木
なぜそれほどスピードが上がったのでしょう。
合田
内的な観点では、開発のツールが進化したことですね。CADで言うと、以前は2次元だったものが、今は3次元。これにより設計だけでなく、試作、生産など全てのプロセスが効率的になりました。
外的な観点では、排出ガス規制など環境規制への対応が急務となったことがあります。この20年は、3年毎にどこかのカテゴリーのエンジンを最新型に切り替える、というプロジェクトを重ねてきました。製品の性能は十分だけど、環境規制対応のため改善、という案件がものすごく増えたのです。
事業のグローバル化が進んだことも、要因の一つです。以前は目の届く範囲に競合の姿があって、競合よりレベルの高いものを作ろう、としていれば良かった。しかしグローバル化により、意識する相手が変わってきた…と言うか、企業だけを見ていればいいという段階ではなくなってきました。
タダノは、2050年までにカーボンネットゼロ達成するために、2030年までに事業活動におけるCO2排出量を25%、製品におけるCO2排出量を35%削減する、「タダノ・グリーンソリューション」を掲げています。
言わば地球環境そのものが意識すべき目標となったわけです。業界内で競合に勝った・負けたとやっている場合ではなく、環境を守るため、これまで競ってきた相手と共創する姿勢すら必要になってきました。
溝渕
それは大きな変化ですね。
合田
市場が拡がると、ラインナップも充実させなければなりません。かつてのタダノはまだまだラインナップが弱かったので、充足させる必要がありました。今ではほぼ網羅する状態にまで来ましたが、空いている部分もあります。
タダノはIHIグループのIHI運搬機械(株)から運搬システム事業を買収することが決まっており、2025年7月をメドに連結子会社化します。同社はタワークレーンや港湾クレーンに強く、タダノグループがドイツで生産するクローラクレーンとも親和性があります。
また同社には、今後の洋上風力設備の建設で活用が期待されるリングリフトクレーンもあります。世界NO.1のLE(Lifting Equipment)企業となるためには、このような、特殊なニーズにも対応できるようにしておかなければならないのです。

逆風であっても、 “安全” 第一は不変


溝渕
これまでのキャリアで、ご自身のターニングポイントと思われるのはどういったことですか?
合田
2008年の「安全装置」に対する取り組みですね。クレーンには事故を防ぐため、安全装置が搭載されています。ところが、「安全性」と「生産性」は、ある意味でトレードオフの関係にあるのです。
現場では、少しでも多くの作業をしたい。しかし負荷をかけすぎると安全装置が働いて、それ以上作業できなくなってしまう。そういうわけで、安全装置を意図的にオフにして稼働させる現場も結構ありました。
メーカーとしてはもちろん「安全装置は切らないで」とお願いするのですが、全ての現場をチェックして回るわけにもいきません。結果、転倒事故を起こしてしまうこともありました。
そこで、安全装置をオフにすることができない設計にしたのです。安全装置を切るから転倒するのであれば、切れなくすればいい、と。しかし、現場はそう単純ではありません。安全装置を切れないような建設機械は、使い勝手が悪い、と売れなくなってしまったのです。
一部の顧客は「作業効率が落ちる」「現場の自由度がなくなる」と、タダノから離れていってしまいました。
溝渕
大きな決断に踏み切った背景はどういうところにありますか?


合田
タダノは2004年に大きなリコールを経験しました。その際、確認したのが、私たちのコアバリューは「第一に“安全”、第二に“品質”、第三が“効率”。どんな場合であれ、順序は変わらない」ということです。この原点に立ち返ろうと思ったのです。
当時の社長に方針を話した時、「腹はくくったか。もう後戻りはできんぞ」と言われました。社長は、この決断がどういった反響を呼ぶか、より広い視点でイメージされていたと思いますが、それでも止めろとは言わず、若い私の決断を支持し、背中を押してくれました。
佐々木
社長ご自身も覚悟を決めた瞬間だったんですね。
合田
ちょうどリーマン・ショックで、モノが売れない時期でしたから、顧客と相対する営業は大変だったと思います。以前の機種ではできたことが、新型でできなくなったわけですから。
競合他社はここぞとばかり「タダノのクレーンは使い勝手が悪い」と、ネガティブキャンペーンをはってきますし。批判が収まるまで、4~5年はかかりました。
しかし、間違いではありませんでした。安全第一というのは、機能性や利便性といった性能向上のための競争とは次元の違う、建設機械としての根幹となるものです。どんな逆風にさらされようと、タダノは安全を最重要視する。「短期的利益より社会的責任を優先する」という企業文化を世の中に示したことは、顧客との信頼関係を深くしました。
最初は批判的に見ていた競合他社も、徐々に追従しました。安全装置を改善して15年、今ではそれを原因とする転倒事故はゼロになっています。その状況を見ると、少しはブランド価値の向上に貢献できた、世の中の役に立てたかな、と実感します。
佐々木
合田さんの決断が、業界のスタンダードを生み出したのですね。
合田
業界の歴史として、大きなターニングポイントになりました。
一方で個人的にはもう1つのターニングポイントがありまして、諸々の心労が重なったせいか体調を崩してしまい、1年で3回も入院する、という経験もしました。自分がやらなきゃ、と追い込み過ぎたのだと思います。
病院にいると、こうやってベッドで寝ていても会社のプロジェクトは動いている。自分一人でがんばらなくても、周囲に助けてくれる人がたくさんいる、ということに気がづけました。しんどい時には少し立ち止まり、周りを頼ってもいいんだと分かってからは、すごく気が楽になりましたね。

電動化・自動化を進め、社会課題解決に寄与


溝渕
安全装置の件から15年、タダノ社は製品全方位でゼロ・エミッションを目指すという方針を掲げています。これも大きなテーマですね。
合田
私が入社した1992年はバブル崩壊直前でした。需要が急減する中、建設機械のありようが見つめ直された時期でもあったと思います。経済性・効率性が問われると共に、キャビンにはエアコンが搭載されたり、デザイン性が付加されるなど、社会の中に溶け込む存在であることが建設機械に求められるようになりました。
約15年が経ち、安全に対する考え方が変わったのは、既に述べた通りです。それからまた15年、おっしゃられるように「建設現場の省人化」「カーボンニュートラルへの対応」という、世界的な課題と向き合うことになりました。
建機の業界には、大体15年周期で大きなテーマがやってきているように思います。
佐々木
2023年には業界に先駆けて、フル電動のラフテレーンクレーンをリリースされましたが、そのような開発が続くということですね。


合田
2024年末には電動の超大型クローラクレーンの開発に成功したことを公表しました。また、高所作業車でもフル電動タイプを登場させる予定です。
電動化を考える時、インフラ、すなわち充電設備が整わないと、電動式の建機を作っても意味がない、という議論は今でもされます。でもそういった、「鶏と卵の話」はもう止めよう、と。私たちにできるのは、開発し、提案することです。卵を生んだら、どのように育てるかはそこから考えればいい。進んでいる方向が間違っていなければ、道は拓けます。
溝渕
フル電動のクローラクレーンなどは、他社の追随が容易でない製品でしょうか?
合田
技術的なハードルの高さはあります。しかし、会社としてやるか・やらないか、の決断の方が大きいのではないでしょうか。手間をかけて開発して、投資分はいつ回収できるのか、という経済合理性から見れば、手を出さないという判断も真っ当だと思います。
しかし、先駆的にチャレンジしてみようというのが、タダノのDNAなのです。誰もやらないなら、私たちがやる。タダノは利益の追求だけではなく、社会的課題を先頭に立って解決する存在であるべきだと考えます。
電動化に加え、自動化というテーマもあります。遠隔操作で建機が動かせるようになると、オペレータなどの働き方も大きく変わるでしょう。タダノとして、どんな技術、価値が提供できるのか。その技術が、業界や社会にどう影響を与えるのか。そこまで見据えながら、開発にあたっていきます。

災害の少ない四国は、安心できる場所


溝渕
タダノ社が求める人材像についてもお聞かせ願えますか。
合田
技術系人材について言えば、専門的な技術の有無はそれほど重視していません。建機業界にいた人は即戦力ですが、そもそもそういう人は多くありません。近い業界は自動車でしょうか。
4つのタイヤで2トンを支える自動車業界にいた技術者からすると、1つのタイヤで6トンの重量を支える建機の世界も、魅力は大きいと思います。ただ、これらの専門的な知識は、必須とは考えません。
重視したいのは、チームとして同じ方角を向き、力を合わせられるか、ですね。リーダーであれば、いかにメンバーの力を引き出し、同じゴールに向かっていけるか。常人の何倍もの力を発揮するスーパースターが必要ということではなく、メンバー1人ひとりの力を発揮させ、チームとしてより高い成果に向かって躍進できるようなリーダーシップを必要としています。
偉業は一人の天才ではなく、チームの力で成し遂げられるのです。互いに補い合い、一緒に挑んでいけば、克服できない課題はありません。
また、“社会のために”という思想が大事ですね。タダノはこれまで、社会的課題に向き合ってきましたから、同じ思いで挑戦できる方に仲間になってほしいです。
もちろん、挑戦の中で、失敗もあるでしょう。私も数え切れないほど失敗してきました。任されたプロジェクトを完遂できずに入院してしまった時は、自分にとっては大失敗でした。それでも、技術者としてのキャリアが閉ざされることはなく、復帰後、会社からは再びたくさんのチャンスを任せてもらえました。
佐々木
チャレンジした上での失敗で、キャリアが閉ざされることはないということですね。
合田
タダノには「Bad News First」という考えがあります。悪い話が出たら、すぐに上司に連絡を入れろ、と。反省とか謝罪は後からでいい。そして今何をすべきか、に集中しようと。
私はこの「Bad News First」に、「Thanks」を加えています。よく躊躇せず、悪いニュースを早く伝えてくれた。これで適切に対応できる、ありがとう、ということです。
タダノは2023年、長野工業という会社を買収し、協力して開発をやっていました。すると試験中、ある部品を大きく損傷しました。まだ一緒に業務を始めて間もない頃でしたが、問題が発生したことで双方の開発陣がすぐに集まり、リカバリー策の検討し始めたのです。
一つ間違うと、責任を押し付け合う泥仕合になったかもしれなかった。でもタダノには問題を隠したりするのではなく、共有することで迅速に対応しようという文化がありました。おかげで、建設的な意見交換ができ、互いの技術をリスペクトするようになりました。
失敗をきっかけに、むしろ組織は強くなったように思います。
今後もM&A案件はいろいろ出てくるでしょうが、チームで同じゴールを目指す姿勢を忘れなければ、互いの強みを活かせる仕事ができる、と期待しています。


佐々木
合田さんは四国ならではの働く価値について、どのようにお考えでしょうか。
合田
私たちの住む瀬戸内海沿岸は、自然災害が少ないですね。温暖だし、安心して暮らせるのはメリットです。そういう場所に生産拠点を置いているのは、事業継続性から見ても大きいと思います。
以前は最新の情報は東京でないと…と言われがちでしたが、コロナ禍によってだいぶ状況が変わりました。情報を収集したり、技術計画を立てたり、といったことは、遠隔地にいてもオンラインでやり取りできますから、不都合ありません。
実際、タダノではドイツなどの技術者や、海外にいる顧客、業務関係者とも頻繁にミーティングしています。四国にいながらでも、グローバルな環境で働くことはできますよ。
溝渕
ローカルだからこれができない…などの閉塞感を味わうことなく、十分にスキルを発揮できそうですね。
合田
建機業界は、さらに変化していきます。電動化・自動化が進み、遠隔操作が当たり前になると、「タダノのコックピットで他社機械を動かすことが、なぜできないのか?」といった声も高まってくるでしょう。もっともな主張だと思います。
各社が操作システムを揃えようとしないから、不都合が起こる。だったら業界で共有するプラットフォームがあってもいいはず。「そんなことをやったら顧客を囲い込めない」などと言っていては、逆に顧客が離れていきますよ。社会のためどうあるべきかを考え、業界全体でまとまっていけば、それぞれの会社にメリットが返ってきます。
そういう号令をとるのも、タダノの重要な役割の一つ。社会に役立つ開発をしたい、四国から世界のスタンダードを発信したいという人は、ぜひタダノで活躍してほしいですね。
佐々木
タダノの事業の方向性やご自身のターニングポイント、そして人材感に至るまで、幅広いお話しをお聞かせいただき、とても参考になりました。本日はありがとうございました。

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合田 洋之

(株)タダノ 取締役執行役員常務 チーフ・テクニカル・オフィサー

徳島大学大学院を修了した1992年、(株)タダノに入社。製品開発を担当する。2008年、LE開発第一部長に就任。2012年、タダノのインド子会社であるタダノ・インディアPvt.Ltd.の取締役に就任し、3年間、インド市場を経験する。帰国後、2017年に執行役員、2020年に執行役員常務(開発部門担当)を経て、2022年、取締役執行役員常務に着任。2024年は日本技術研究部門・開発部門を担当し、2025年より、チーフ・テクニカル・オフィサーとなる。

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